| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S06-5  (Presentation in Symposium)

歴史標本から読み取る魚類の食性の長期変遷

*加藤義和, 奥田昇, 由水千景, 陀安一郎(総合地球環境学研究所)

湖沼における食物網構造の長期的な変遷を明らかにすることは、過去に受けた人為的な影響を評価し、適切な保全策や漁業計画を立てる上でも重要である。本研究では、琵琶湖集水域で100年以上にわたり採集・蓄積されてきた魚類標本を対象に、アミノ酸窒素安定同位体比(δ15NAA)を用いて過去の栄養学的位置(trophic position: TP)の変遷を明らかにすることを目的とした。
対象としたのは、琵琶湖を代表する捕食魚であるハス(Opsariichthys uncirostris uncirostris)である。1914年以降に湖内で採集、保管されてきたハスの液浸標本についてδ15NAAを測定し、2ソース混合モデルによる栄養起源(水域起源・陸域起源)の寄与率およびTPを推定した。この際、過去の琵琶湖における水域栄養起源の代用物として、イサザ(Gymnogobius isaza)の液浸標本を用いた。
δ15NAAによる推定では、ハスのTPは1910~1960年代にはほぼ横ばい(3.0–4.0)であったが、1970年代に上昇し(4.0)、その後、1980年代~2010年代には下降、横ばいの傾向にあった(3.0–3.5)。バルク窒素安定同位体比を用いた解析でも、同様の傾向が得られた。以上の結果から、食物網構造の長期的な変遷を明らかにする上で、δ15NAAが有効なツールとなることが示唆された。
今回観察されたハスのTPの長期変動は、琵琶湖の環境変化(1960年代以降の富栄養化とその後の水質改善、1980年代以降に急増した侵略的外来魚との種間競争、近年の自然護岸や内湖の復元といった環境保全策)とも密接に関係している可能性がある。今後、さまざまな機関に保管されている生物標本を用い、δ15NAAによる解析を行うことで、過去の食物網構造の復元、さらには生態系管理等への応用が期待される。


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