| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S12-3  (Presentation in Symposium)

河川地形が支える多様なサケ産卵群

*卜部浩一, 下田和孝(道総研さけます内水試)

北海道のサケは産卵期の異なる多様な群(大別すると前期群と後期群)により構成されている.近年の研究によると,両群では産卵床内の水温が異なり,前期群は冬季には0℃近くまで水温が低下する場所を,後期群は冬季も比較的高い水温が保たれる場所を産卵場所として選択的に利用していることが示唆されている.河床間隙中の水温特性には瀬淵構造や砂礫堆といった河川地形が影響することが知られていることから,多様なサケ産卵群の維持に河川地形が関与している可能性がある.以上のことを背景とし,本研究では,サケ前・後期群の産卵環境特性の評価に加え,河床間隙水の特性に河川地形(砂礫堆)がどのような影響を与えるか検討した.
調査は2012年9月から11月にかけて,十勝川水系猿別川下流および石狩川水系漁川中流に位置する砂礫堆周辺で行った.調査項目は(1) シロザケ産卵床の分布位置および産卵床内の河床間隙水特性の調査,(2) 砂礫堆周辺における河床間隙水の特性評価により構成される.
前期群の産卵床では河川表流水の浸透が卓越し,冬季には水温が0℃近くまで低下した.一方,後期群の産卵床では河床間隙からの湧昇が卓越し,冬季間の水温は4℃程度までしか下がらず,前期群に比べて高い水温が維持されていた.産卵床の分布位置は両群で異なり,前期群の産卵床は砂礫堆上流部に,後期群では砂礫堆の下流部に集中した.砂礫堆周辺では本流側の上流で浸透が卓越し,本流側の下流および二次流側路の上流で湧昇が卓越することが確認された.積算水温の分析から,前期群と後期群の産卵床内における水温差は,両群の孵化時期を同調させる役割を果たしていると考えられた.また,水温特性の異なる河床間隙水の分布には砂礫堆が関与していることが確認されたことから,多様なシロザケ産卵群の維持にとって,河川地形が一定の役割を担っていることが示唆された.


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