| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S15-3  (Presentation in Symposium)

生態学の展望・Eco-DRR・グリーンインフラ

*吉田丈人(東京大学・地球研)

日本学術会議生態科学分科会がまとめた報告「生態学の展望」が、2017年7月に日本学術会議から表出された。この報告では、日本の生態学の現状をレビューし、今後急速に発展すべき研究の方向性や、さらなる発展のために必要な事項を提示している。特に急速な進展が期待される生態学分野として、1)地球環境変化の科学としての生態学:生物多様性や物質循環など地球規模での危急課題の解決に貢献する必要性、2)生命科学(分子生物学や生理学)と生態学の融合:生物多様性の創出とその役割を理解するには、生理学的観点と生態学的観点との統合が必要なこと、3)大規模データを活用した生態学研究:生態学的現象の理解を大きく進展させることが期待される大規模データの重要性、を指摘している。また、社会のための生態学の役割として、1)自然共生社会の実現に向けた社会−生態結合システムの理解が生態学の今後の重要な研究テーマになること、2)応用科学としての生態学の未来として、農学や医学分野での課題解決において、生態学に基づいた新しい発展が期待されること、3)初等中等教育への貢献として、生態学者のノウハウを実習授業に活用する体制の整備や、科学研究の面白さを伝えられる研究経験のある教員の養成が重要であることも指摘している。さらには、生態学の発展や社会への貢献のために必要な、研究体制と研究費、若手研究者の育成、生態学の認知度を高める努力について、具体的な提案をしている。この報告は、未来の生態学をになう若手生態学者に対する激励であり、未来の生態学者のために現在の生態学者がなすべき指針を示している。2030年になった時、この報告が示す指針が実現しているかどうか、2018年を振り返ってみることが必要だろう。生態学の知見を活用したEco-DRRやグリーンインフラが社会に広く一般的に実現するよう、生態学が果たせる役割について議論したい。


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