| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S18-2  (Presentation in Symposium)

「効率か?存続か?それが問題だ!-生物は何に対して最適化されているのか?-」

*小林和也(京大・フィールド研), 長谷川英祐(北大院・農), 石井康規(NS Solutions)

一般に、生物の性質は自然選択によって最適化されており、当該性質を規定している遺伝子の頻度が集団中で最大化されていると理解されている。しかし、実際の生物では、一見、遺伝子頻度を最大化しているとは思えない非効率的な形質が見つかることがある。例えば、アリの社会では巣や仲間のために働かない個体(働きアリ)が観察される。アリ社会において、働かない個体の存在は作業効率を悪くするため、全員で働いた方がその社会(巣)の生産性は向上すると考えられるが、現実にはそうなっていない。この現象は反応閾値モデルで説明されている。すなわち、巣内に発生するそれぞれの仕事が持つ刺激の強さが、その仕事と出会った個体の閾値を超えた時だけ、その仕事に反応し処理を行うというものである。この反応閾値に個体間でバラつきがある場合、良く働く個体と働きにくい個体が自動的に生まれる。現象としてはこの反応閾値モデルで上手く説明されるが、なぜこのような作業効率を損なうシステムがアリで採用されているのだろうか? アリが働いた時に疲労し、疲れたら回復するまである程度の時間休まなければならないならば、働きやすい個体だけの集団では仕事を継続的に処理し続けることは難しいだろう。アリの巣内には継続的に処理し続けることが重要な仕事が存在するため、仕事処理の持続性が短期的な効率よりも重要となる可能性がある。今回、先行研究で構築された個体ベースのシミュレーションモデルを利用し、様々な閾値分布に対し仕事の処理効率や持続性を計測したところ、それぞれを最大化する閾値分布は異なることが明らかになった。このシミュレーション結果をもとに、どのような環境で処理効率の最大化・継続性の最大化が有利になる(=進化する)のかを議論する。


日本生態学会