| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S18-3  (Presentation in Symposium)

「「だが、君なら続くんだろうな?」「...。そのためのモルフです。」-増殖効率最大化によ る永続共生系の進化-」

*渡邊紗織(北大/農学院/動物生態)

ヨモギにつくヨモギヒゲナガアブラムシ(Macrosiphoniella yomogicola)はアリの随伴を受ける種であり、赤と緑の色彩多型があることが知られている。これまでの,競争を基盤にした3つの既存の多型維持メカニズムでは、本種の多型維持は説明できなかった。そこで本研究では、アリ随伴が本種の色彩多型維持に関わっており、アリは、それぞれのヨモギ上で、赤と緑が混在したコロニーをより強く保護するため、集団内・ヨモギ上多型が維持されると考え、野外実験および室内実験で検証した。その結果、赤は、初期増殖は緑よりも高いが、甘露の質は赤より低く、ヨモギが花序を出すと急激に絶滅して数を減らすアブラムシコロニーの、10月中旬の有性虫産生までの存続に貢献していることが明らかになった。緑は、高栄養下の甘露を出し、初期増殖率は赤より低いが、アリをより多く呼ぶことで、春から夏の無性増殖期のコロニー生存に貢献していることが明らかになった。アリは多年生であり、来年以降も同じ場所で営巣・採餌する。そのため、直近の利益(緑による高品質の甘露)を追求せず、低栄養だがコロニー存続に特化した赤を維持することにより、次年度の資源を確保できると考えられた。本研究では、以上のことから『利己的な形質が進化する自然選択の下で、生物多様性を必要とする、参加者全員の、直近の利益を犠牲にした長期的存続共生の進化』の一例が示された。自然選択による利己的な形質の進化の下では、生物は最終的には必ず絶滅するとが、自然選択の結果が生物多様性に基づく持続可能な共生なら、驚くべき生物多様性の多くは、競争に基づく適応度バランス機構よりも、永続性パラダイムに基づく共生進化により説明されるかもしれない。(from Watanabe et al, Sci Adv, 2016, Watanabe et al, Sci Rep, 2018)。


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