| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T01-3  (Presentation in Organized Session)

動物の行動プロセスを野外データと流体力学で理解する

*深澤圭太(国立環境研究所), 東出大志(兵庫県立大学)

多くの動物はホームレンジをもって行動する。不均質な環境下においてそのパターンがどのように決まるかを明らかにすることは、個体群の空間構造を理解するうえで欠かせない。本研究では、個体が地理障壁の影響を受けながら移動することで様々な形状のホームレンジを形成するプロセスを標識再捕獲データから推定する手法を開発した。この手法では、個体の存在確率の空間分布を考え、その時間変化をホームレンジ中心への移流とランダムな拡散から成る移流拡散方程式で記述している。標識個体がある場所・時点で再確認される確率は個体の存在確率と検出率の積であり、存在確率は移流拡散方程式の数値解を求めることで近似的に得られる。その解は、短い時間では初期位置の影響を受けるが、長い時間では初期位置に依存しない定常的な分布になる。移動障壁などの不均一な環境の効果は、拡散係数を環境依存とすることで明示的に扱うことができる。このモデルは個体ごとに異なるホームレンジ中心という多くの潜在変数を含むが、それらを積分消去した周辺尤度を最大化することでホームレンジ中心への引力の強度および拡散係数の環境依存性を推定することが可能である。このモデルを富山県東部のツキノワグマを対象とした自動撮影カメラによる個体識別調査データに適用し、土地被覆が拡散係数に与える影響と堅果の豊凶がホームレンジ中心への引力に与える影響を検討した。その結果、河川および裸地の存在がツキノワグマにとっての移動障壁となることや、堅果の凶作年においてはホームレンジ中心への引力が低下することが推定値より明らかとなった。標識再捕獲モデルに個体の存在確率の「流れ」を組み込んだアプローチは、複雑で個体ごとに異なる行動プロセスの統一的な理解に向けて有効なツールになると考えられた。


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