| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T02-2  (Presentation in Organized Session)

環境DNA分析による母貝中イタセンパラ仔魚の個体数推定

*多田眞証(龍谷大・理工), 米倉竜次(岐阜水産研), 小松史弥(岐阜水産研), 各務博人(岐阜水産研), 山本義彦(神戸大・院・発達), 源利文(神戸大・院・発達), 山中裕樹(龍谷大・理工)

 イタセンパラは野生での絶滅がとりわけ危惧されているコイ科魚類である。この種は天然記念物に指定されており、生息域外保全によって増殖事業が行われている。親魚は二枚貝内に産卵するため、増殖事業では貝を開いて産卵確認が行われる。しかし、この確認行為が貝やイタセンパラの死亡を招く場合があり、新たな方法が求められている。本研究では、保護繁殖活動に貢献するため環境DNA分析を用いた、産卵母貝内イタセンパラ仔魚数の推定を試みた。
 イタセンパラの親魚が飼育されている池から取り出した貝60個を個別に3Lボトルで2日間飼育した後に500 ml採水し、リアルタイムPCRでイタセンパラの環境DNAを定量した。この実験で用いた貝の経過観察を行い、泳出等により貝内の仔魚の総数を確認した。仔魚が確認された貝は43個体で、そのうち34個体の飼育水からDNAが検出され、検出率は79%であった。また、仔魚の総数とボトル内のDNA量に有意な相関関係は見られなかった。次に、仔魚からのDNA放出量をより直接的に測定する実験をいくつかの温度条件下で実施した。保護された仔魚をシャーレで飼育して20℃、5℃、再び20℃と飼育温度の変化を与え、それぞれの温度条件下でシャーレ内の水を全量採取してDNAを定量した。その結果、温度条件間で差がみられ、また、仔魚の個体数とシャーレ内のDNA量に有意な正の相関がみられた。
 シャーレ実験の結果から仔魚数とDNA量の間には本来は相関関係があると分かった。しかし、ボトル実験では仔魚の総数とDNA量の間に有意な相関はなく、イタセンパラDNAの貝外への放出やその回収がうまく行えていない可能性がある。この点について分析手法の改善を行う事が、環境DNA分析による貝内の仔魚数の推定のために必要であると考えられる。これが可能になれば、貝やイタセンパラの損失を最小限にした保護増殖活動が可能になるだろう。


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