| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T03-1  (Presentation in Organized Session)

複雑な形質のマクロ進化プロセス: 多要素構造、系統比較法、進化順序推定

*鈴木誉保(農研機構・カイコ)

複雑な形質(かたち・模様・生活史・行動など)がどのように進化してきたのかは、進化・生態生物学の最大の謎のひとつである。ダーウィン以来、複雑な形質は徐々に進化してきた(漸進進化)と主張される一方で、複雑な形質は突然進化した(跳躍進化)とする主張も絶えない。こうした進化ステップは、形態形質を対象として明らかにされてきた。例えば、キリンの長い首、ヒラメの片側に寄った眼、歯クジラと髭クジラについて、化石を利用した研究により既に漸進進化ステップが明らかにされている。しかし、形態形質であっても蝶の翅模様や動物の眼のような軟組織の多くは化石を入手することが難しい。また、行動形質や生活史形質はそもそも化石として残らない。さて、この困難をどのように乗り越えて、様々な形質の進化プロセスを調べることが可能だろうか?
 最近、演者は、マクロ進化プロセスを解くための包括的な数理解析手法を開発した(文献1)。この数理手法は、5つのステップからなる。(1)分子系統樹の作成、(2)形質の多要素構造分解、(3)形質要素の特徴コーディング、(4)系統比較法による祖先状態推定(あるいは、形質変化の順序推定)、(5)進化プロセスの再建。本発表では、まず、形質の構造分析の基礎となる多要素構造の概念を紹介する。多要素構造の背景には「還元できる複雑性」と「組立性」がある。次に、系統比較法の一般的な背景を概説し、本手法で利用する祖先状態の推定と形質変化の順序推定について解説する(残念ながら、時間の関係上、数学の詳細については簡単にしか触れられない)。さらに、本手法を利用して解明した例として、枯葉擬態の蝶(コノハチョウ)の進化を例に解説する(文献2)。最後に、本手法の形態以外の形質へも適用可能であることを示し、今後の展開についても議論したい。

文献1: Suzuki (2017) J Exp Zool B 328:304-320.
文献2: Suziki, Tomita, Sezutsu (2014) BMC Evol Biol 14:229.


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