| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T03-2  (Presentation in Organized Session)

シジュウカラの文法能力:人工音列の作成による構成的理解

*鈴木俊貴(京都大学)

一般に,構成的アプローチとは,研究対象のモデル(人工細胞やロボットなど)を実際につくってみることで,複雑な生命現象(細胞機能や生物進化など)を再現し,理解しようとする試みを指す。細胞機能や生物進化と同様に,動物行動を司る認知機構も,単純な観察から分析することが困難な複雑系であり,構成的な研究手法がその理解を助けうる。かつて,動物行動学においても,こうした構成的なアプローチが用いられた潮流があった。たとえば,ティンバーゲンに始まる解発因(リリーサー)の研究やローレンツによる超正常刺激の発見は,刺激(モデル)をつくり,提示することで行動の解発機構を探究した例である。私は,鳥類が他個体の発した音声から情報を解読する上でどのような認知機構を介しているのか,人工的に音声刺激をつくることで検証した。シジュウカラは異なる音声(警戒声と集合声)を組み合わせ,受信者に複雑な反応(捕食者の追い払い行動)を促す。音声の組み合わせには順序があり,語順を逆転させた人工音列を聞かせても,適切な反応は誘発されない。さらに,同種の音声と他種の音声から新規な音列を合成し,その語順を操作することで,シジュウカラが音列全体を情報の単位と認知しているのではなく,各音要素から得られる「情報の順序」を認識して,適切な反応を示すことも明らかになった。これらは,ヒトに固有と考えられてきた文法能力が鳥類においても独立に進化してきたことを示す成果であり,言語の起源や進化を探る上でも重要な知見といえる。


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