| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T04-2  (Presentation in Organized Session)

生物多様性から神奈川県の自然保護エリアを考察

*竹野内正寿, 尾崎光男, 田中努((株)富士通研究所)

 神奈川県の特別保護地区、特別地域など現在の自然保護エリアは、1938年に環境省により、景観を重視して制定された。生物多様性の観点からこの自然保護エリアを考察することは、今後の保全活動や保護エリアの再考、保護エリアの再生にとって重要と考えられる。
 今回我々は、神奈川県指定の絶滅危惧種約200種の観察データを用い、Maxentによる生息エリアのシミュレーション解析を行い、少ない観察データから未知の生息エリアを予測した。次にその結果を用いて、Zonationによる多様性分布のシミュレーションを行い、現在の自然保護エリアの多様性を検証したので報告する。
 絶滅危惧種のデータには、神奈川県植物誌調査会の「神奈川県植物誌2001」の維管束植物データを用いた。地価データには、国土交通省土地鑑定委員会の2017年公示のデータを用いた。Maxent、Zonationのシミュレーションには、環境データとして、植生(環境省 自然環境局 自然環境保全基礎調査)、標高・気候(国土交通省 国土政策局 国土数値情報)を用いた。
 Zonationによる多様性シミュレーションの結果、国定公園の丹沢地区、国立公園の箱根地区内の特別保護区は、多様性も非常に高いエリアであることがわかった。また、両地域の特別地域も他の地域と比べると比較的多様性が高い傾向を示したが、丹沢山系の南面と北面の多様性は低めであり、乖離が見られた。一方、愛川地区、三浦半島地区は自然保護エリアとはなっていないが、多様性は高めであった。
 以上の結果から、MaxentとZonationを用いた生物多様性の解析は、現在の自然保護エリア内におけるさらなる優先的小規模保護エリアの抽出や小規模保護エリア間の優先順位の決定、生物多様性の観点からの新たな自然保護エリア抽出の可能性があることがわかった。今後はさらに、行政における自然保護活動に使用できるようにするため、実地検証と比較しながら、データ解析数を増やしてゆく。


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