| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T04-4  (Presentation in Organized Session)

保全計画における国と地方自治体の役割:国・都道府県ごとの空間的保全優先地域の特定

*塩野貴之(琉球大・理学部), 楠本聞太郎(琉球大・戦略研), 久保田康裕(琉球大・理学部)

保全重要地域の指定や種の保全などの生物多様性に関する保全政策は、国から地方自治体まで様々な行政レベルで、階層的・補完的に実施される。例えば、国立公園は国、国定公園や都道府県立自然公園は地方自治体が管理するなど、保護区により管理行政レベルが異なる。また生物多様性国家戦略・地域戦略やレッドリストは、国および各都道府県や一部の市町村で編纂されている。一方、生物種や生態系の空間分布、それらを規定する生態学的プロセスは、行政単位とほぼ無関係であり、生物多様性の保全重要地域やそれに関係した保全政策は、行政的境界とは必ずしも対応しない。例えば、保全上の重要生物種や重要地域は、地域的な空間分布や個体数の希少性で定義される。そのため、都道府県の境界をまたいで分布する種が、ある県の県境付近でのみ局在している場合、都道府県単位での保全優先地域は、国レベルでは必ずしも優先地域でない県境付近に集中するという境界効果が生じる。また、同じ生物種でも、国や地方自治体において絶滅危惧ランクが異なることは珍しくない。したがって、生物多様性の保全計画は、管理行政レベル間で矛盾することもあり、パロキアリズム(地域主義の保全政策)になりがちである。実際、国の生物多様性国家戦略と各都道府県の生物多様性地域戦略の連携は十分に図られていない。科学的根拠に基づいた保全重要地域の特定、及びそれに基づいた保全計画を、空間スケールの異なる行政レベル間で調整して整合性を保つことは、保全政策の実効性(費用対効果)の上で重要課題である。このような観点から、私達の研究グループは、国や都道府県の各レベルで生物多様性の空間的保全優先地域の順位付け分析を行い、行政レベル間の保全優先地域のパターンを明らかにした。この結果に基づいて、管理行政レベル間での保全優先地域の矛盾を緩和する方法と、保全計画における国と地方自治体の役割を議論する。


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