| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T08-2  (Presentation in Organized Session)

リュウキュウアユの初期生活史と摂餌生態

*久米元(鹿児島大学水産学部)

本研究では,奄美大島東部の住用湾に注ぐ川内川の個体群を主な対象とし,リュウキュウアユの仔稚魚の出現状況,成長,食性,成魚の摂餌生態について明らかにした.
2012年12月から2013年5月,2013年12月から2014年4月に,川内川河口域の内海及び住用湾に設けた定点で仔稚魚標本の採集を行った.標本は体長,発達段階を記録した後,耳石及び消化管を取り出し,後の解析に供した.成魚標本は2015年7月,9月,11月に住用川で,2016年6月に川内川で採集した. 今回,リュウキュウアユを含む中流域に優占する合計7種を食性解析に使用した.魚類標本,主要な餌と考えられた落葉,付着藻類,デトリタス,水生昆虫について炭素及び窒素の安定同位体比分析を実施した.
2012年度,2013年度ともに孵化は11月中旬から1月末の長期に渡っていた.仔稚魚の分布は,海水環境である住用湾に比べ汽水環境である内海に大きく偏っており,孵化直後の前期仔魚から遡上直前の稚魚まで,幅広いサイズ及び発達段階の個体が成育場として利用していた.主要な餌生物はカイアシ類であり,体長25mm以上の遡上間近の大型個体は底生性のハルパクチクス目カイアシ類を高い割合で摂餌していた.2012年度に比べ2013年度は空胃率が低く,摂餌個体数も多かったことから,餌環境がより好適であった可能性が示された.一方,Biological-intercept法により成長履歴を推定した結果,成長率に年による違いはみられなかった.当初の予想に反し,成魚の消化管内容物における付着藻類の出現割合は極めて低く,デトリタスが大半を占めていた.安定同位体比分析結果から,リュウキュウアユを含む中流域の多くの魚類は重要な餌として付着藻類を利用しているが,その現存量の少なさから摂餌環境は好適なものではないと推察された.仔稚魚の成育場である河口・沿岸域に加え,遡上後の餌場としての河川環境の改善,適正な保全にも今後注力していく必要がある.


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