| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T08-4  (Presentation in Organized Session)

生態調査と大規模DNA分析から明らかとなったリュウキュウアユのメタ個体群構造

*小黒環(新潟大院自然科学), 安房田智司(大阪市大院理), 武島弘彦(東海大海洋)

 野生生物の適切な保全には,複数の局所個体群が個体の移入・移出により連結したメタ個体群構造を考慮する必要がある.メタ個体群構造の理解には,継続的な生態調査と経時的標本の遺伝解析が必要不可欠であるが,双方のデータを揃えることは困難を伴うため,研究例は少ない.リュウキュウアユは両側回遊性の生態を持つにも関わらず,海洋生活期が短く,稚魚の分散範囲が限定されること,また,産卵が毎年見られる河川(ソース)と年によっては個体が全く観察されない河川(シンク)があることから,メタ個体群が形成されていると考えられる.本研究では,1992-2017年に採集した1235個体を用いて38のSTRマーカーに基づく大規模なDNA分析を行った.さらに,生態調査を行い,1992年以降の川毎の在・不在や個体数の年変動に影響する要因を調べた.
 DNA分析の結果,島東部の大小11河川については,遺伝的に均一のメタ個体群構造を持つ住用湾の複数河川,および,遺伝的に異なる特徴を持つ1河川(嘉徳川)が検出された.嘉徳川は,住用湾内の主要産卵河川から一方的な遺伝子流動の影響を過去も現在も受けているが,小規模ながらも産卵がほぼ毎年見られており,セルフ・リクルートメントと遺伝子流動から独自の遺伝子頻度を維持していると考えられた.さらに,この十数年の間に嘉徳川の個体群は少なくとも一度絶滅しており,再度移入があったことも示唆された.一方,閉鎖的な湾に産卵河川1本と複数の小河川が注ぐ西部では,遺伝的に単一のメタ個体群であった.生態調査の結果,一定の流量がない小規模河川はシンクとなり,ある程度の流量でも,ソースからの距離が離れることで個体群維持が難しくなっていた.
 以上から,特定の河川ではなく,メタ個体群全体として保全策を講じる必要性が示された.特にシンク河川では,産卵環境の改善と河口閉塞対策など移入経路の確保が求められる.


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