| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T14-3  (Presentation in Organized Session)

多胚性寄生蜂のカースト多型

*岩淵喜久男(東京農工大学)

多胚生殖は一個の胚子から多数のクローン個体を生産する生殖様式で、多様な遺伝子の組み合わせが確保できる有性生殖と、現在の環境に適した個体を増やすことのできる無性生殖、それぞれの利点を放棄したある意味中途半端な生殖様式である。昆虫では多胚生殖をおこなう種はすべて寄生性である。普通の昆虫と異なり、クラッチサイズの決定は、雌親が決めるのではなく、寄主の発育に伴い、資源量の増加とともに数を増やす、環境依存的な決定様式により行われる。胚子の増殖は、桑実胚の均等または不均等分裂によって起こるが、その結果、副産物として過剰な胚子または成虫にまで発育できない胚子が作られる。多胚性寄生蜂キンウワバトビコバチでは、寄主卵に産下された1個の受精卵(雌)または未授精卵(雄)から2,000個以上のクローン胚子が作られる。多くの胚子は寄主が終前齢になった時に形態形成を開始し、終齢2日目に繁殖幼虫となり、成虫になるが、一部の胚子は寄主が1齢のときから早熟的に不妊の兵隊幼虫となる。カースト決定は、桑実胚が分裂する際、生殖質をもつ胚細胞を含む胚子が生殖胚になり、含まない胚子が兵隊胚になる。兵隊幼虫は、同一寄主に寄生してきた他の寄生蜂の幼虫を攻撃するが、雌雄で攻撃力に差異があり、雌のほうが強く、しかも雌では性特異的に増員が起こる。現在、この分子機構を調べているが、野外集団には遺伝的に増員できるものと、増員できないものが共存している可能性があり、その意味について検討中である。また、カースト決定においては、生殖質の有無が分化全能性の維持と不可分な関係にあり、その機構についても検討中である。本企画集会では、多胚性寄生蜂のクローン集団のカースト分化に見られる表現型多型とそこに含まれる課題について紹介したい。


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