| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T15-2  (Presentation in Organized Session)

コウノトリ育む農法実施水田における動植物群集の特徴

*内藤和明, 佐川志朗, 大迫義人(兵庫県立大・地域資源)

日本におけるコウノトリ野生繁殖個体群の最後の生息地である兵庫県豊岡盆地では,飼育下で繁殖させた個体の再導入が2005年から実施されている.野外での繁殖により増加した個体や,その後,福井県および千葉県野田市でリリースされた個体を含めて,2017年には野外個体数が100を超えた.
コウノトリの主な採餌場所は,里地の水田,湿地,河川などで,様々な小動物を餌とする.中でも水田は比較的広い面積を占める重要な採餌場所と言える.豊岡盆地周辺では,コウノトリの採餌環境の復元と付加価値の高い米の生産を意図した特別栽培稲作として,「コウノトリ育む農法」による稲作が2003年から行われている.この農法は,除草剤や殺虫剤の不使用あるいは削減,中干しの延期,冬期湛水などにより特徴付けられ,植物群集や動物群集に慣行農法とは異なる影響を与えている可能性がある.
演者らは,「コウノトリ育む農法」と慣行農法の生物群集を比較するために,植生,水生および陸生昆虫,カエル類,鳥類の調査を両農法の圃場で2014年から実施した.その結果,「コウノトリ育む農法」実施水田は,圃場内および畦畔の植物の出現種数や圃場内の植被率が高いことが明らかになった.一方,昆虫類については分類群により結果が異なり,また農法による違いが明瞭ではなかった.カエル類および鳥類に関しても調査期間を通じての安定した結果が得られなかった.その要因としては,景観スケールでの要因が与える影響が分類群によって異なること,「コウノトリ育む農法」実施圃場の中でも水管理や畦畔管理が一定ではないことなどが考えられる.
なお,本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「生物多様性を活用した安定的農業生産技術の開発」の成果である.


日本生態学会