| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T16-3  (Presentation in Organized Session)

雲霧帯における気温・湿度の年間パターンの推定と10年間の植生変化

*朱宮丈晴(日本自然保護協会)

小笠原諸島火山列島の北硫黄島における標高別の気象環境および南硫黄島における10年間の植生変化を明らかにした。2008年から2009年にかけて北硫黄島(標高792m)に標高別に温湿度ロガーを設置し、年間の気温と湿度を測定し、南硫黄島の山頂部(916m)の気温と湿度を推定した。逓減率から年平均気温は17.3℃、最高33.7℃、最低6.5℃、年較差10.2℃、温量指数152.4℃月であると推定された。また、北硫黄島の山頂の湿度は90%以上が年間91.5%に及ぶことがわかった。南硫黄島における標高傾度に沿った森林群落の垂直分布を2007年と2017年の群落の組成や構造に基づいて明らかにした。DCAによる序列化により、木本層、草本層、着生層の優占度に基づく組成を2次元展開したところ木本層の組成はDCA1軸に沿って5つのグループに区分された。木本層や草本層では大きな変化はなかったが、着生層は2017年の調査においてオガサワラモクマオやトキワイヌビワなど常緑低木種が消失し、シマキクシノブやイワガネゼンマイが見られるなど大きく異なっていた。直径階分布により10年間の更新状況を比較すると標高521m(コル)ではあまり変化がなかったが、911m(山頂)では常緑高木のコブガシの更新がInverse-J型からSporadic型になり不安定な更新を示したのに対して、常緑低木のトキワイヌビワやシマイズセンリョウは個体数が増加し、安定な更新を示した。群落断面図からも山頂のコブガシ林は、597mと521m(コル)の中腹のコブガシ林のように林冠がうっ閉しておらず、その間を常緑低木のヒサカキやトキワイヌビワが占有していた。1982年の調査ではコブガシによる閉鎖した林冠があったとされ、35年間で山頂雲霧林の構造が変化したと推定された。南硫黄島の雲霧林には、希少種を多く含む貴重な生態系であるが、環境変化の影響を受けやすく雲霧の変動や大規模撹乱により変容していることが明らかになった。


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