| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T16-4  (Presentation in Organized Session)

外生菌根性樹木がいない島の菌類相

*保坂健太郎, 南京沃, 高星千恵美(国立科学博物館)

 小笠原諸島は海洋島であり、これまで主要な大陸と地続きになったことがない。そのため動物相と植物相については、非常にユニークであることが数々の研究で明らかにされている。特に維管束植物の固有率が約40%であり、ガラパゴス諸島とほぼ同じ割合であることは、特筆すべき事項であろう。
 そのようなユニークな環境にあって、もうひとつ特筆すべきは、自生する外生菌根性植物が存在しない、ということである。主に特定のきのこ類と根を通じて栄養をやりとりし、相利共生の典型例の一つとされる外生菌根系であるが、北半球の主要な外生菌根性植物であるブナ科やマツ科などが小笠原諸島には自生しない。すなわちそれらと共生するきのこ類も分布しないはずである。ところが現在の小笠原諸島には、人間が持ち込んだリュウキュウマツが広く分布しており、同時に外生菌根性きのこが発生する様子も確認することができる。これは現在人間が済む父島、母島はもちろん、兄島や火山列島の北硫黄島でも同様である。そんな中で主要な島としては唯一、南硫黄島にはリュウキュウマツの持ち込みはこれまで確認されていない。つまり、小笠原諸島本来の姿である、外生菌根性植物のいない菌類相が保持されている可能性が高いのである。
 本発表では、9年間にわたり小笠原諸島で続けている菌類(主にきのこ類)調査の結果、採集できたきのこ類の子実体標本(計4,000点以上)、および各島から得られた土壌サンプルのメタゲノムデータに基づき、きのこ類の多様性と種組成の特徴について考察する。土壌サンプルは、リュウキュウマツの自生地である琉球列島より、奄美大島8地点、沖縄島24地点、石垣島10地点、宮古諸島3地点の他、小笠原諸島からは父島13点、母島15地点、南硫黄島14地点の合計87サンプルを得た。これらから抽出した環境DNAから、菌類の核ITS領域をPCR増幅し、イルミナ社MiSeqにて解析した。


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