| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
第22回 日本生態学会宮地賞受賞記念講演
「植生は、破壊されても時間をかけて回復•遷移する。」このことは、高校の教科書にも書かれており、誰もが知っている自然現象である。しかし、タイトルにも示した制限要因に関する疑問は、生態学において最も古典的であるにも関わらず、未解明な点が多い疑問の1つでもある。特に、数百年という時間をかけて進む植生遷移や、遷移にともなう土壌の変化を長期的に制限する要因については、これまで明らかにされてこなかった。
そこで演者は、気温上昇によって氷河が後退した場所で進むツンドラの一次遷移を対象に、植生遷移や土壌へ炭素が蓄積する早さを長期的に制限する要因を検証した。研究では、「数キロメートルの範囲に成立する氷河の後退後の一次遷移系列」と、同所的に存在しながらも「数メートルという非常に狭い範囲に成立する土壌の凍結後の一次遷移系列」という2つの時系列系を比較した。その結果、同所的に存在し、気象条件や種子源を共有しつつも種子の分散量が少ない状態で進む氷河後退後の遷移や土壌炭素蓄積が、土壌凍結後のそれらに比べて数百年に渡ってゆっくりと進むことが示され、氷河後退後の一次遷移や土壌発達は、種子の分散制限により数百年に渡って制御されることがわかった。
また、演者は、北方林の主な撹乱である山火事後の植生の二次遷移について、山火事により生み出され、土壌中に混入したまま長い間分解されずにとどまる炭が、火事後の二次遷移を長期的に制御していることを発見した。この研究では、人為的な山火事実験を駆使するなどして、炭の重要性を検証している。
一連の研究は、寒冷地特有の自然の環境勾配(Natural Gradient)や大規模操作実験を利用することで、生態学の根源的な問いを検証することが可能であることを示唆している。講演の最後には、Natural gradientや大規模野外操作実験を駆使しながら研究を進める醍醐味について触れながら、日本の生態学分野ではあまり人気がない(と演者が感じてしまう)寒冷地研究の魅力についても共有したい。