| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


第22回 日本生態学会宮地賞受賞記念講演

鳥の鳴き声と言語の進化〜行動生態のその先へ〜

鈴木俊貴(京都大学生態学研究センター)

ダーウィンが『人間の由来』(1871)を著して以来,140年以上にわたって,言語はヒトに固有な性質であると考えられてきました。ヒトは単語を用いてモノや出来事を指し示したり,さらにそれらを組み合わせることで多様な文章をつくり会話します。一方で,ヒト以外の動物(以下,動物)の鳴き声は単なる感情の表れであり,他個体の行動を機械的に操作するシグナルにすぎないと捉えられてきたのです。しかし,この二分法は本当に正しいのでしょうか?ほかの生理的・解剖的特徴については,ヒトと動物のあいだに進化的な連続性や機能上の相似を認めない学者はいないでしょう。にもかかわらず,なぜ「言語」についてはヒトに一度だけ進化したと信じられてきたのでしょう?

私は,この疑問を胸に,野鳥の音声コミュニケーションを研究してきました。12年以上にわたるフィールドワークから,シジュウカラ科鳥類が,捕食者の種類を示したり仲間を集めたりするための様々な鳴き声をもち,さらに,これらの鳴き声を一定の語順に組み合わせることで,より複雑なメッセージをつくっていることを発見しました。受信者は,決して機械的に反応しているわけではなく,鳴き声の示す対象をイメージしたり,音列に文法のルールを当てはめることで情報を解読していることも明らかになりました。これらの発見は,私たちが普段会話のなかで使っている認知機能を動物において初めて実証した成果であり,言語の進化に迫る上でも大きな糸口を与えるはずです。

本講演では,上記の研究内容を紹介しながら,野外観察や行動実験から動物たちの豊かな認知世界にどのように迫れるのかお伝えすることができれば幸いです。比較認知科学や言語学など異分野の観点を取り入れることで,行動生態学は新たな領域に発展する大きな可能性を秘めています。


日本生態学会