| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
第6回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞記念講演
根系と根食昆虫の関係は、ほとんどの生態学者から注目されてこなかった。この関係を研究対象とするため、地上部でよく知られた理論が地下部にも適用できるか検討し、それを盾に地下部研究の重要性を主張しようと試みた。奇抜なことを考えたのではなく、理論から仮説を導き、それを実験やモデルで検討する科学的方法に従ったわけである。
まず、土壌生物は垂直方向に階層化され、昆虫は土壌表層に多く分布することに着眼した。垂直方向の昆虫の分布を操作すると、土壌表層に分布する時に植物へのダメージが最も大きく、しばしば枯死した。これらは、根系の根元や主根で根食される確率が高く、そこが脆弱であることを示している。次に、植物の防御形質分配を説明するのに最も支持されている最適防御理論が、地下部にも適用できるか検討した。地上部を1.茎、2.葉柄、3. 葉身の順位で、地下部を1.主根、2.側根、3.細根の順位で防御価値が高いとする概念モデルを立てた。実測した化学防御物質グルコシノレートの濃度(恒常防御強度)を、概念モデルによる順位と地上部か地下部かにより説明すると、地上部より地下部で、また、順位が高いほど濃度が高かった。以上の結果は、食害に最も脆弱な部位に最も多く防御形質を分配すると予測する最適防御理論と矛盾しない。さらに、根食に対するグルコシノレートの誘導防御様式も最適防御理論と矛盾しないことも見出した。すなわち、主根が食べられても細根が食べられても、主根でグルコシノレート濃度が上昇したが、細根では食害部位にかかわらずグルコシノレートの誘導は生じなかった。昆虫よりも病原菌に防御効果がある種類のグルコシノレートが顕著に誘導されたため、根系の誘導防御には病原菌の二次感染を防ぐ役割もあると考えられた。
グルコシノレートの誘導防御は、新たな生合成とインタクトな器官からの輸送により生じうるため、現在は、濃度上昇機構を各遺伝子の発現から説明しようと試みている。地下部も注目することにより、植物個体全体の応答評価が可能となり、ダイナミックで精巧な植物の防御応答が明らかとなりつつある。