| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-05  (Oral presentation)

花粉形態とDNAメタバーコーディングによるチョウの訪花植物の同定
Identification of flowers visited by butterflies based on pollen morphology and DNA metabarcording.

*南木悠(総合研究大学院大学), 日下石碧(農研機構), 寺井洋平(総合研究大学院大学), 丑丸敦史(神戸大学), 木下充代(総合研究大学院大学)
*Yu NAMMOKU(SOKENDAI), Aoi Nikkeshi(NARO), Yohey Terai(SOKENDAI), Atushi Ushimaru(Kobe Univ), Michiyo Kinoshita(SOKENDAI)

訪花性昆虫が好んで訪れる花は、これまでハナバチ類を中心に明らかにされてきた。一方で、チョウ類も多くの種が花で吸蜜するが、個々の種が訪れる花については未だ情報が少ない。そこで、採集と野外での訪花観察が容易なヒメウラナミジャノメ(Ypthima argus)を対象に、ハナバチ類の研究のように体表付着花粉の分析による訪花植物の同定を行い、野外での訪花観察の結果と比較した。
採集と訪花観察は、総研大キャンパス内の緑地で行った。まず、採集したヒメウラナミジャノメをショ糖溶液で撹拌して花粉を集め、総花粉数の推定と花粉の形態による分類を行った。続いて花粉から抽出したDNAをもとに、2領域(ITS1, ITS2)の塩基配列を決め、配列の相同性から花粉の分類群を同定した。また、野外でヒメウラナミジャノメが訪れた花を記録した(25日間:12時間/日)。
採集した29個体(2017年5月:9個体, 2018年4-5月:20個体)全てに花粉が付着しており、推定した総花粉数は3155.5 ± 496.6個/個体だった。花粉形態により同定した21の分類群(種17, 属1, 科3)のうちハルジオンとフランスギクの花粉はそれぞれ28個体、26個体から見つかり、合わせて全総花粉数の76%を占めた。また、クリの花粉が2017年度に採集した全ての個体から見つかった。一方、DNA解析により28個体から34の分類群(ITS1:種6, 属19, 亜科4, 科1, ITS2:種3, 属11, 亜科4, 科1)を同定し、全ての個体からフランスギク、26個体からハルジオン、18個体からシイ属を同定した。フランスギク、ハルジオンは野外で観察した計90回の訪花のうちそれぞれ69回、14回を占め、野外で高頻度に訪花していた花を花粉分析によっても多くの個体から同定した。一方で、比較的高所で花を咲かせるクリやシイ属などの樹木の花粉も多くの個体から同定できた。このことは花粉分析からチョウの訪花履歴が明らかにできること、特に訪花を直接観察するのが難しい植物への訪花履歴を解明するのに有効であることを示している。


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