| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) B01-06 (Oral presentation)
エゾエンゴサクは、花蜜を提供することで花粉輸送をマルハナバチに委ねて種子を生産し,生産された種子の散布を、エライオソームを付けることでアリに委ねている。花蜜やエライオソームへの資源投資は、種子そのものへの投資資源(直接コスト)とは異なるアクセサリーコストである。多年生植物ではポリネーションが量的・質的に優れた状況では当年の種子生産への資源投資を増強するが、量的・質的に優れない状況では貯蔵を優先させるといった、花粉制限に応じた資源投資の変化がみられる。このような資源動態が直接コストで知られているのに対し、アクセサリーコストでも同様に生じているかどうかは明らかでない。本研究では、エゾエンゴサクにおいて、花粉制限の程度に応じたエライオソーム生産様式を調べるため受粉実験を、またエライオソームが種子散布に及ぼす効果を評価するため種子散布実験を行なった。受粉実験では、強制他家受粉により結果率を調節し、結果した果実の種子数、種子重、エライオソーム重を測定した。種子散布実験では、種子長とエライオソーム長を計測した種子を地表に並べ、アリに持ち出されるまでの時間を計測した。受粉実験では、結果率の増加に伴い1)結実率は増加、2)種子重は横ばいに推移、3)エライオソーム重は増加、した。さらに種子散布実験では、種子はエライオソームのサイズが大きいものほどより短時間で持ち出されることが明らかになった。以上より、花粉制限が弱まるほどより多くの種子を生産するが、それ以上に相対的に大きなエライオソームを生産していることを示している。すなわち、種子生産にかかる直接コストよりむしろアクセサリーコストに多く資源投資していた。このようなアクセサリーコストでの花粉制限に応じた資源投資は、多産の状況で種子あたりのエライオソームを大きくし、個々の種子の散布機会を得るための、アリに対する積極的なアピールであると考えられる。