| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-08  (Oral presentation)

標高方向の種子散布は鳥類と哺乳類で異なるか?:酸素安定同位体による評価 【B】
Does vertical seed dispersal differ between birds and mammals?: Evaluation by stable oxygen isotopes 【B】

*綱本良啓(森林総合研究所), 小池伸介(東京農工大学), 陀安一郎(総合地球環境学研究所), 正木隆(森林総合研究所), 加藤珠理(森林総合研究所), 菊地賢(森林総合研究所), 永光輝義(森林総合研究所), 原口岳(総合地球環境学研究所), 長沼知子(東京農工大学), 直江将司(森林総合研究所)
*Yoshihiro TSUNAMOTO(FFPRI), Shinseki Koike(Tokyo Univ. of Agri. & Tech.), Ichiro Tayasu(RIHN), Takashi Masaki(FFPRI), Shuri Kato(FFPRI), Satoshi Kikuchi(FFPRI), Teruyoshi Nagamitsu(FFPRI), Takashi Haraguchi(RIHN), Tomoko Naganuma(Tokyo Univ. of Agri. & Tech.), Shoji Naoe(FFPRI)

植物が地球温暖化から逃れるためには、種子散布によって気温の低い高標高または高緯度へ移動する必要があり、その担い手としての動物の種子散布機能の解明は、植物の温暖化適応能を理解するうえで重要である。本研究では、環境の異なる2つの山地に生育する動物散布樹木を対象に、種子を構成する有機物中の酸素同位体分析を行い、動物相および地形の違いが、垂直方向の種子散布に与える影響を評価した。
植物体を構成する有機物に含まれる酸素の安定同位体比は、標高と負の相関があることが知られており、この関係を利用することで散布種子の標高移動を推定することが可能である。このことを利用して、種子トラップおよび見取りにより、阿武隈高地(茨城県)と足尾山地(栃木県)で、2015年に初夏結実のカスミザクラ、2014, 2016年に晩夏~初秋結実のウワミズザクラの散布種子を採取し、酸素同位体分析によって垂直散布距離を推定した。
カスミザクラは、大部分の種子が高標高方向へ散布されていた。ウワミズザクラでは、2014年は高標高へ、2016年は低標高への散布が多く、年変動がみられた。両樹種のこれらの結果は散布者や山地によらず共通していた。以上の結果は結実の季節や豊凶が、垂直散布の方向性に影響していることを示唆している。種子散布距離はツキノワグマで最も長かったものの、鳥類も、長距離散布を頻繁に行なっていた。また、山地により散布距離には違いがみられたが、傾向は樹種や年により異なり、地形との明瞭な関係はみられなかった。種子散布量は、阿武隈高地は足尾山地よりも少なかった。この結果は、阿武隈高地に大型の種子散布者 (ツキノワグマとニホンザル) が分布せず、主にテンや鳥類が散布に関与するためであると考えられ、地域絶滅による哺乳類相の貧弱化は、種子散布量を減少させ、樹木が効率的に分布域を移動できなくなる可能性が示唆された。


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