| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) B01-10 (Oral presentation)
果実食性の鳥類群集と植物群集との間には様々な環境で被食型種子散布を通じた共生系ネットワークが成立している。演者らは2005年から2016年にかけて福井県越前市織田山での鳥類標識調査で鳥種の糞や吐き出し物を採集、それらに含まれていた種子の種類や頻度を調べ、渡り鳥と植物群集間の種子散布ネットワークについて調査を行ってきた。その結果、ネットワーク構造は渡り鳥の飛来状況と野外の果実量に依存して変化し、鳥の飛来個体数が多く、果実量の多い年には特異的な関係性が高いモジュール構造が発達することが明らかとなった。特にツグミ科ではシロハラとマミチャジナイの2種を中心とした2つのモジュールがそれぞれ独立して形成され、各モジュールに属する種は特定の植物種群の種子を優占的に散布していた。この事は近縁な鳥種間でも条件によっては利用する植物種を分割、一定の植物種に特殊化した種子散布が起きることを示唆している。本発表では各鳥種と各植物種の果実の形態的特徴の解析から、この特殊化した関係が構築される理由を検証した。正準相関分析の結果、ツグミ科5種は嘴の形態的特徴から2群に分類され、その分類パターンはモジュールの分類と一致していた。分類に最も寄与していた特徴は上嘴長で、また上嘴と下嘴の差が小さいモジュールに属する2種、マミチャジナイとアカハラはサイズの小さな果実を散布する傾向にあった。また多変量解析によって得られた果実形態と嘴形態の分類の分布は両者は相関関係を示す傾向にあった。鳥散布では嘴の形態的特徴は散布対象を決定する重要な要因の1つであるが、今回の結果から近縁種間の微妙な形態差も散布対象を分ける要因となり、それが特異的なモジュールグループの形成につながることが示唆された。