| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) B03-01  (Oral presentation)

小笠原諸島兄島におけるグリーンアノールの拡大と顕在化が始まった在来昆虫相への影響
Inpacts for local insects fauna and their distributinnal expansion of invasive alien lizard Anolis carolinensis in Anijima Is. of Ogasawara

*苅部治紀(神奈川県立博物館), 戸田光彦(自然環境研究センター), 松本俊信(自然環境研究センター)
*Haruki KARUBE(kanagawa Prefectural Museum), MItsuhiko Toda(Japan Wildlife Research Center), Toshinobu Matsumoto(Japan Wildlife Research Center)

グリーンアノールは北米東南部原産の外来爬虫類で、国内では小笠原諸島、沖縄島などに定着している。本種は、小笠原諸島では父島、母島に侵入定着し、それぞれ1980年代後半からと1990年代後半から、同地に生息する昼行性の中小型昆虫類を、捕食によって地域絶滅や激減に追いやったことが明らかにされた。現在ではきわめて侵略的な外来種として認識され、特定外来生物に指定され、希少種保全地などでの駆除が継続されている。
 小笠原諸島内のアノールの分布は長らく上記二つの有人島に限定されていたが、2013年3月、諸島内でももっとも自然度が高く、多くの固有種が健全に生息していることで世界自然遺産地域の核心部と位置付けられている兄島で確認された。発見後に官民協力のもと分布域の探索が実施され、生息密度は低いものの、島の南西部に定着していることが明らかになり、それまでに父島、母島で確立されていた粘着トラップによる捕獲技術をただちに投入して、個体群コントロールが着手された。また地元NPOや行政による拡散抑止フェンスの設置など、緊急対応が開始された。父島と母島の事例で、我々は本種が全島に拡散して生息密度が極大になった状況しか知らなかったが、兄島の事例では、初めて侵入初期からの個体群の挙動を知ることができた。
2013年から2016年まではトラップを用いて密度を急速に減少させることができたが、当初考えられていたよりも分布域は拡大しており、兄島の南部に広く拡散していることが明らかになってきた。無人島である兄島での捕獲作業には多大な労力を要し、広域にわたる高密度のトラップ設置は困難であること、急斜面での捕獲技術は存在しないことなどから、生息密度の上昇が危惧されていた。2018年、この危惧は現実となり、それまでは低密度で抑制されていた本種の高密度分布地が兄島で確認され、さらに、一部であるが、固有昆虫ヒメカタゾウムシの個体数の激減が初めて確認されたので報告する。


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