| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-01  (Oral presentation)

鳥による捕食が駆動するナナフシの長距離分散の可能性
Potential role of bird predation in the dispersal of otherwise flightless stick insects

*末次健司(神戸大学), 伊藤桂(高知大学), 舟木翔一(神戸大学), 兼子伸吾(福島大学), 横山岳(東京農工大学)
*KENJI SUETSUGU(Kobe Univ.), Katsura Ito(Kochi Univ.), Shoichi Funaki(Kobe Univ.), Shingo Kaneko(Fukushima Univ.), Yokoyama Takeshi(TUAT)

植物は、様々な方法を用いて種子を遠くへ運び、分布域の拡大を図っている。その主要な方法の一つに、果肉を報酬として鳥に種子散布を託す方法(被食鳥散布)がある。一方で多くの鳥は、果実だけではなく、昆虫も重要な餌資源としている。そこで我々は、卵を持ったメス昆虫が鳥に摂食された場合に、未消化のまま卵が排泄されることで分散に寄与することがあるという仮説を立て、摂食実験を通してこの仮説を検証することにした。こうした鳥による被食を介した分散が成立するには、「卵殻が丈夫である」、「ふ化した幼虫が自力で餌場に到達する」、「単為生殖する」といった条件が必要である。そこで、これらの条件を満たすナナフシの卵をヒヨドリに摂食させた。その結果、多くの卵は破壊される一方で、無傷で排泄され、ふ化する卵もあることが明らかになった。
 鳥に食べられても子孫を残す可能性を示す本成果は、昆虫が鳥に捕食されると例外なく死に至るものだという常識を覆すものである。地味な見た目をしていることからもわかる通り,ナナフシが積極的に鳥に食べられ分散している可能性は極めて低いと思われる。とはいえ、ナナフシの多くは、翅をもたず能動的な分散能力が極めて低いことが知られている。よって偶発的で低頻度なイベントであったとしても鳥による捕食が、移動分散や分布拡大、異なる個体群間での遺伝子交流に重要な役割を果たしている可能性もある。今後ナナフシの全国的な遺伝構造を把握することで、鳥による捕食を介したナナフシの長距離分散が実際に起こっているのかを検討していく予定である。


日本生態学会