| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-03 (Oral presentation)
ウマノオバチ Euurobracon yokahamae (Dalla Torre, 1898)の生態は近年急速にその実態が解明されつつある。特にその寄主については定説とされてきたシロスジカミキリ幼虫ではなく、ミヤマカミキリであり、齢期は蛹であるとすることで、本種の生活史を矛盾なく説明できる。しかし、以下の点、一つはミヤマカミキリが坑道と蛹室の間に作る石灰質の仕切りをどのように越えて、蛹室の中の蛹に到達するのか、もう一点は、ミヤマカミキリの様々な齢期の幼虫が存在する木の中で、どのようにして産卵に適した蛹であることを本種メスが知るのか、が大きな未解明な部分として残っていた。本研究では、工業用内視鏡を使った観察を行うことにより、産卵中の本種と同時にカメラを入れて、産卵管の位置を直接観察し、動画撮影することに成功した。このことにより、本種はミヤマカミキリ幼虫が作った仕切りと坑道壁面のわずかな隙間に産卵管を差し込んで産卵していることが明らかになった。材中の捕食性の昆虫や、他の寄生性の昆虫から、動けぬ蛹を護るために進化したであろうこの仕切りは、蛹室内に産卵されミヤマカミキリ蛹に寄生した本種の幼虫をもこれらの捕食から護ることとなり、本種メスが産卵する際の指標ともなっていることが推測される。
同じく工業用内視鏡を用いた観察により、産卵部位を正確に特定できたことから、後日その部分を慎重に伐りだし、本種幼虫の様子を動画撮影し、さらに飼育下において観察を続けた。本種幼虫がミヤマカミキリ蛹室を裏打ちするような共同の繭を作り、その中に個々の繭を形成して、蛹化、成虫となって羽脱するところまでを観察した。これらの観察から、5月初旬に産卵され、孵化した幼虫は短期間で成長し、5月末には終齢幼虫となり、6月中旬には蛹となって、7月中旬から下旬には成虫となり、そのまま翌年の発生時期までの約10か月間を材中で過ごす生活史のほぼ全容が解明された。