| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-07 (Oral presentation)
生物の中には個体によって異なる生活史を採用する種が存在する。この現象は代替生活史戦術と呼ばれ、様々な分類群で知られている。サケ科魚類に属するサクラマス(Oncorhynchus masou)も代替生活史戦術を示す。サクラマスは繁殖を河川で行い、孵化後一部の個体は孵化した当年に河川で成熟するが(残留型)、他の個体は一年間河川で成長したのち、海に降り成熟する(降海型)。生活史を決める要素の一つに体サイズがある。体サイズが大きい稚魚ほど残留型となる傾向にあり、河川に残るか、海に降るかの意志決定は稚魚期に体サイズがある一定の閾値を越えるか否かでなされると考えられている。また、サクラマスの成熟による形態・行動の変化にはホルモンのはたらきが関与している。特に、残留型の成熟にはテストステロンなどの成熟因子群が大きく関わっている。成熟因子群は個体間の闘争で勝利することで産生量が増加し、稚魚の成熟を促進する。本研究ではこれら2 つの因子が個体の闘争の結果を左右するとし、意思決定がなされることを定式化した。具体的には体サイズが大きく、成熟因子のホルモンが多いほど個体間での闘争の勝率が大きくなり、勝利した個体はより成長しやすく、成熟因子の産生量も多くなると考えた。構築した数理モデルを用いて、生活史二型が現れるために必要な条件を調べた。
その結果、生活史二型が現れるためには個体間相互作用とホルモン産生の間にフィードバックが必要であることが分かった。このことから、闘争とホルモン産生間でのつながりがあることとサクラマスが代替生活史を持つようになったことが関係しているのではないかと考えられる。