| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-01 (Oral presentation)
高度に土地利用が進んだ都市域では,学校の敷地も植物の生育場所として機能しうる重要な緑地である.また,学校は人口に応じてほぼ一定の間隔で設置されていること,校内の土地利用や施設配置には共通性が高いことなどの特徴から,都市の局所的な植物相を抽出し相互比較するうえで適した標本単位である.本研究では,東京都府中市の公立小中学校27校において,学校ごとの植物相調査を実施し,在来種・外来種別の出現種数,学校間の類似度,学校の立地による種組成の差異,ハビタット別の種数比較などを行い,学校の植物相の特徴を明らかにした.
記録された維管束植物の総種数は565種で,うち在来種は316種(56%)であった.これは市内の在来植物相の約半数を占めると推定された.学校あたりの平均出現種数は164種(うち在来種96種)で,小学校と中学校で違いは認められなかった.学校間の出現種の類似度(Jaccardの指数)は平均0.45で,学校間の距離には影響されていなかった.しかし,学校の場所が台地上であるか沖積低地であるかによって出現種に違いがあり,いくつかの種が台地または低地に偏在していた.また,在来種についてそのハビタットを5つ(森林,林縁/半陰地,草地,畑地/路傍,水田/水湿地)に区分し,ハビタット別の出現種数をみると,崖線林に隣接する学校では「森林」「林縁/半陰地」の種が多く,河川に隣接する学校では「草地」の種が多くなるなど,一部の学校では植物相が周辺の自然環境の影響を受けていると考えられた.在来種と外来種の出現回数-種順位曲線を作成すると,在来種のほうが減少カーブは緩やかになり,必ずしも外来植物相が学校間の植物相の均質化を招いているわけではなかった.
以上から,都市域の小中学校の敷地は在来植物の生育場所として一定の役割を果たしており,人工的な緑地ではあってもその立地環境や周囲の自然を反映した植物相を保持していることが示された.