| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-03 (Oral presentation)
印旛沼の流域には,谷津と呼ばれる小さな谷が多数存在する。谷津の奥部では湧水が存在し、かつてはそれを利用して水田稲作が行われていた。しかし、地形が狭隘で湿潤な谷津の水田は、大型の機械を用いる近代的な農業に向いておらず、耕作放棄が進行した。近年では谷を埋め立てるなどの開発も進行している。しかし、湧水によって涵養される谷津は、湿地性・湧水依存性生物にハビタットを提供するほか、貯留による水害抑制機能、脱窒による水質浄化機能など、多様な機能を持ちうる。それらの機能を評価し、谷津をグリーンインフラとして土地利用計画に組み込むことは、気候変動が進行する今後の社会にとって重要である。
本研究では、印旛沼に流れ込む河川である神崎川・桑納川流域、高崎川流域を対象に、谷津の現状把握と機能の評価を行った。まず1940年代から2000年代までの航空写真の判読により、谷底湿地の土地利用・土地被覆の変遷を整理した。次に、水田もしくは放棄水田である谷津から37か所をランダムに選択し、立ち入ることができた29地点で、湧水依存生物の分布と環境の調査を行った。
生態系機能としては治水と水質浄化に注目した。治水機能は、都市型谷津と自然型谷津で下流に対する治水効果の違いを降雨ピークから流量のピークまでの時間差を比較することで評価した。水質浄化機能は、谷津奥部の湧水と谷底湿地の出口の水のイオン濃度を比較することで評価した。
航空写真の読み取りから年代の経過とともに耕作放棄や地形の改変を伴う開発が増加していることが分かった。谷津奥調査では20地点でオニヤンマ幼虫、サワガニ、ホトケドジョウなどの湧水依存生物が確認された。在不在には湧水の有無が強く影響し、湧水の有無には台地の上の土地利用が関連していると考えられる。発表では周辺環境と湧水依存生物の有無についての解析結果について報告する。