| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-06  (Oral presentation)

中華の高級食材であるアナツバメの巣の持続可能な利用についての数理モデル解析
Analyzing sustainable use of swiftlet nests which are ingredients of bird's nest soup mathematically

*中丸麻由子(東京工業大学), 大沼あゆみ(慶應義塾大学)
*Mayuko NAKAMARU(Tokyo Institute of Technology), Ayumi Onuma(Keio University)

生物資源の持続可能な利用を実現させるのは難しい。その理由の一つは、持続可能に利用するためのルールを守って採取するよりも、ルールに従わずに過剰に採取する方が短期的な利得が高くなるためである。もしルールを遵守する採取者の方が遵守しない採取者よりも短期的な採取量が高くなれば、誰に対しても生物資源を持続的に利用する動機が生じるだろう。一方先行研究では、将来の採取可能性と採取者の割引因子を関連させて持続可能な生物資源の利用に結びつける可能性を議論したものが多かった。
 こうした動機が生じる例としてマレーシア・サラワク州のアナツバメがある。成鳥が洞窟の天井に作る巣は中華の高級食材として高値で取引されている。各洞窟には先住民に賦与された所有権(採取権)があり、採取者に採取権を貸す。巣の卵やひなを捨てて巣のみを採取するという乱暴な方法を取る採取者も後を絶たないため、集団サイズが減少し巣数も大きく減少した時期もあった。乱暴に巣を採取をすると成鳥が逃げて同じ場所に再び戻らず、巣の収量が下がるため、丁寧な採取を行う方が巣の収量が高くなる可能性が当局から伝えられている。
 本研究ではステージ構成のある個体群動態モデルを解析して、丁寧な採取者と乱暴な採取者での短期的な収量の比較を行った。すると、どの場所でも採取が可能な場合には、条件によらずに乱暴な採取者の方が短期的な収量は高くなった。一方、所有権を導入した場合は、乱暴な採取者の場所から成鳥が逃げ出した後に、再び成鳥が集団に戻り乱暴な採取者のいる場所であっても営巣をすれば、丁寧な採取者の短期的な収量の方が高くなることを示した。以上より、アナツバメでは採取者間で自発的に持続可能な生物資源利用を実現する条件が存在している。この知見が共有されることが課題となる。
 この研究は、生物学的特性次第では持続可能な生物資源の利用のための制度設計が難しくない事も示している。


日本生態学会