| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-07  (Oral presentation)

スナヤツメ孤立個体群の生息環境とサイズ構造:個体群間比較による持続性評価
Habitat characteristics and size structure of Lethenteron sp. isolated population

*平野佑奈(東邦大学), 木寺法子(東邦大学, 岡山理科大学), 今藤夏子(国立環境研究所), 西廣淳(東邦大学)
*Yuna HIRANO(Toho Univ.), Noriko KIDERA(Toho Univ., Okayama Univ. of Science), Natsuko KONDO(NIES), Jun NISHIHIRO(Toho Univ.)

河川における横断構造物(ダム、堰堤、落差工など)は、生活史の中で複数のハビタットを利用する生物が生活史を完結できなくすることや、メタ個体群を構成する局所個体群間の移動を妨げることにより、生物の存続を脅かす可能性がある。世界的には、ダムのような大型の構造物の影響が多く指摘されてきたが、より小規模な構造物も、移動能力の低い生物には大きな障壁となる。
日本の水田の多くは、圃場整備事業に伴い水路が人工化された。河川は排水能力を高めるために河床が掘削されることが多く、周辺の水路との間に段差が生じる。このような段差は、水田、水路、河川を移動する動物個体群の分断化をもたらす可能性がある。
スナヤツメは湧水に依存した生活をする種であり、千葉県北部においては谷津(台地に刻まれた小規模な谷)が主要な生息地である。筆者らの調査により、谷津の農地周辺の水路で産卵し、水路内を移動しながら成長することが確認されている。農地周辺の水路は、下流では河川と合流するが、そこには段差が生じる場合が多い。このような段差は、上流から下流への一方向に限定された移動をもたらし、スナヤツメ個体群に負の影響をもたらすことが考えられる。
本研究では、農地と河川の間に生じた段差が、スナヤツメ個体群にもたらす影響を検討するため、千葉県北部の2つの流域において、複数の季節で個体群のサイズ構造を調査した。印西市内の調査地では、都市化に伴い河道の掘り下げを含む河川改修が行われており、谷津からの水路との間に1.25 mの段差が生じていた。この河川では、大型個体や成体が極端に少ない傾向が見られた。水路の下流端ある段差が、個体の一方向の移動をもたらしており、大型個体の喪失を招いている可能性が考えられる。また河川に下った個体が他の谷津に遡上する可能性も低いことが確認された。このように孤立化した谷津では、長期的には個体群の絶滅リスクは高いものと考えられる。


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