| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-10 (Oral presentation)
沖縄を除く日本各地に分布するマナマコは、古くから食用として利用され、海の環境保全、改善も担う重要な生物である。近年では中国における需要拡大に伴い価格高騰したことで、急激に漁獲量が伸びたため資源の減少が危惧され、適切な資源の管理、保護が必要となっている。近年、種苗生産技術が確立されつつあり、さらに各沿岸地先では稚ナマコの種苗放流や、放流した稚ナマコの生息場所として、カキ殻やホタテ殻、礫を詰めて作製した礁の設置を行うなど盛んに資源保護に取り組んでいる。
しかしながら、追跡調査が困難なことから未だ放流効果は不透明であり、設置した礁についても大半の個体が離散してしまう事例が多い。マナマコの生態学的な知見は未だに乏しく、特に幼ナマコ以降のステージの行動に関する定量的なデータが少なく改善も難しいのが現状である。そこで一定の大きさ以上のナマコを用い、体サイズ(標準体長)と選択する空間の大きさの関係について、本研究に先行して室内ならびに半野外環境で検証したところ有意な相関がみられ、空間サイズに対する選好性があることが示唆された。
本研究では、実験結果を天然海域において検証するため、北海道南西部の日本海側1地区、太平洋側3地区、長崎県大村湾2地区において調査を実施した。調査は標準体長が100㎜以上のマナマコを対象にし、発見した個体の標準体長を計測するとともに、間隙(空間)の有無、底質、水深についても記録した。調査の結果、室内での実験結果を支持し、間隙が多くみられる礫場で密度が高く、砂泥域であっても岩が点在するような場所を好むことが示唆された。このことからマナマコにとって好適な空間を提供できるような育成礁を使用することで、一定の大きさ以上の個体の育成場の造成が可能であり、資源増殖につながると考えられる。