| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-02  (Oral presentation)

クロノシーケンスの長期観測によって示された林分成長量の加速 【B】
Long-term chronosequence observations revealed accelerated stand growth 【B】

*鈴木智之(東京大学)
*Satoshi SUZUKI(Univ. Tokyo)

様々な環境変化の結果、森林の地上部バイオマス(AGB)の変化速度が加速しているか減速しているかは自明ではない。AGB変化速度が加速している場合、AGBと林齢の関係は時間とともにAGBが高い方にシフトするため、様々な林齢に渡って長期に調査したデータはAGB変化速度の変化の検証を可能にする。本研究では、東京大学秩父演習林の様々な林齢の林分を1980年代から30年以上にわたって調査したデータを解析し、AGBの変化速度が加速しているかどうかを検証した。
 2010年代のAGB-林齢関係は1980年代のAGB-林齢関係に比べ、明らかにAGBが高い方にシフトしていた。観察されたAGBの変化速度は、AGB-林齢関係から推定される変化速度に比べ、ほぼ全ての林齢にわたって大きかった。この結果は、過去に比べて、現在のAGB変化速度が速くなっていることを示唆する。一方で、AGB変化速度はこの30年間の間で、徐々に減速していた。これは、主に死亡によるバイオマス減少が増加しているためだった。このことは、AGB変化速度の加速が、測定を開始する1980年代よりも前に起きており、それが1980年代以降に減速に転じているということを示唆する。秩父地域では、気温上昇は1980年以前にはほとんど起こっておらず、1980年代後半以降に起きていたことから、1980年以前の加速は、二酸化炭素濃度の上昇や窒素降下量の増加によるものと考えられる。1980年以後の死亡バイオマス量の上昇は、気温上昇による水分ストレスの増加、シカ食害、大気汚染物質などによるものである可能性が考えられる。


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