| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-08 (Oral presentation)
植物は,陸上への進出に伴いクロロフィルaとbによって吸収された光エネルギーによって光合成を行うようになり,水中で利用してきた多様な吸光色素は利用しなくなった。陸上では入射日射の波長スペクトルや方向性が直達日射と散乱日射で大きく異なり,植物の葉はそれに応じた高度な吸収特性を保持している。特に,柵状組織の果たす役割は重要で,葉緑体の光合成有効放射(PAR)のエネルギー収支の維持に重要な役割を果たしている。その一方で,水中とは大きく異なる赤外放射域の適応についてはほとんど検証されてこなかった。そこで,植物の葉の近赤外域(700~1400nm)の吸収率(αNIR)について,裸子植物(針葉樹、ナギ、イチョウ),広葉樹,広葉草本,イネ科草本の29種類の葉の分光測定データを利用し,PAR域(400~700nm)の吸収率(αPAR)との関係を解析した。針葉樹のαNIRはαPARと高い相関があり,αPARの増加に対してαNIR は2倍以上の増加率を示し,葉緑体以外の構造組織による吸収の影響が大きいことを示唆した。一方,ナギやイチョウ、草本植物や落葉広葉樹ではαNIR一貫して低かった。PAR光量子吸収あたりの日射エネルギー吸収を比較すると,針葉樹で大きく,落葉広葉樹や草本で小さかった。これらの結果は,針葉樹以外の植物では,日射からの熱吸収割合が最低値に近づくように収斂しているのに対して,針葉樹ではむしろ光合成に利用しない放射成分も積極的に吸収している可能性を示唆した。広葉を持つ裸子植物のナギやイチョウのαNIRは低いため,「黒い」針葉樹の葉は高緯度の低温・弱放射環境への適応的なメリットがある可能性が考えられた。一方、被子植物の葉における極端なαNIRの低さは何らかの選択圧の結果である可能性が示唆され,葉面のエネルギー吸収を抑制することで,葉温や蒸散量を抑制する効果が大きいと考えられた。