| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-01 (Oral presentation)
2011年3月11日に発生した千年に一度という巨大な地震・津波(東日本大震災)は仙台湾岸の砂浜海岸エコトーンを著しく改変・破壊したが、この攪乱直後から多くの野生動植物や生態系が研究者の予想を上回る早さで、自律的に再生している。そして、前海・前浜から後背湿地に至る奥行き数百mに及ぶ砂浜海岸エコトーンのほぼ全域で、複数の事業主体が盛土や客土、踏圧、コンクリート化を伴う防災・復興工事を短期間のうちに、画一的に実施したことによって、自生種とハビタット(潜在的な環境を含む)の多くが消失した。この人為的攪乱は砂浜海岸エコトーンの生物多様性・多機能性(生態系サービス)を支えていた不均一性と冗長性を著しく変質させ、巨大地震・津波を上回るダメージを与えたと推定される。一方、巨大防潮堤(海抜7.2m、底面幅およそ25m、コンクリート壁面)の建造にあたっては、これまでにない順応的な保全・保護対策が導入され、また広大な海岸林基盤盛土(海抜3.2m、平坦な上面をもつ台形、主に丘陵地の土砂を使用)の造成においても、いくつか配慮が加えられた。
本報告では、仙台市宮城野区新浜地区の砂浜海岸エコトーンモニタリングサイトを中心に、植物・植生を継続調査してきた演者らの個別・共同研究から明らかになってきた「‘現場の砂’が自然攪乱後の自律的再生と人為攪乱後の自然再生にとって極めて有用である」ことの典型的な実例を、「防災・復興事業で採用された‘ちょっとした工夫’」とともに紹介する。具体的には、(1)事業予定地の砂の取り置きと覆砂への活用、(2)立ち入りや重機走行、地盤圧密エリアの最小化、(3)飛砂の捕捉を促す施設デザインの導入、などである。なお、砂浜海岸エコトーンを構成する潟湖・後背湿地といった湿性環境下においても、同様の「生物学的遺産としての土壌や微細地形の保全・活用」が実施され、効果をあげている。