| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) G03-07  (Oral presentation)

北上してできたサンゴ集団の遺伝構造 【B】
Genetic analysis of the recently colonized coral populations 【B】

*安田仁奈(宮崎大学), 志村晶史(宮崎大学), 中林朗(宮崎大学), 山北剛久(海洋研究開発機構), 中村隆志(東京工業大学), 相澤浩明(東京工業大学), 北野裕子(国立環境研究所), 井口亮(総合研究大学院大学), 山野博哉(国立環境研究所), 長井敏(水産総合研究センター), Sylvain Agostini(Tsukuba Univ.), 手島康介(九州大学)
*Nina Yasuda(Miyazaki Univ.), Akifumi Shimura(Miyazaki Univ.), Aki Nakabayashi(Miyazaki Univ.), Takehisa Yamakita(JAMSTEC), Takashi Nakamura(Tokyo Institute of Tecnology), Hiroaki Aizawa(Tokyo Institute of Tecnology), Yuko F. Kitano(NIES), Akira Iguchi(SOKENDAI), Hiroya Yamano(NIES), Satoshi Nagai(FRA), Sylvain Agostini(Tsukuba Univ.), Kosuke Teshima(Kyushu Univ.)

造礁サンゴ類は、近年、高水温白化などにより危機的状況にある。このような状況下、温暖化による海水温の上昇に伴い、近年日本の温帯域においては、造礁サンゴ種が北上・分布拡大していることが確認されている。そのため、さらに気候変動が進んだ場合には、高水温白化で絶滅の危機にある熱帯・亜熱帯サンゴにとって、温帯生息域は避難場所の役割を果たすことが期待される。一方、こうした新規に形成された若い集団は遺伝的多様性が乏しく、少しの環境変化で地域絶滅するリスクや脆弱性を秘めている可能性がある。そこで、本研究では、北上傾向のあるミドリイシ属サンゴを中心に北上・分布拡大して出来た集団の遺伝的多様性や遺伝子流動を明らかにし、これらを考慮に入れた分布統計モデルから、温帯域を含む海域の相対的重要度を推定することを目的とした。解析では、黒潮流域において北上して近年出来た集団を含む合計35海域で採集したミドリイシ類3種からゲノムDNAを抽出し、集団遺伝解析を行い、各集団における遺伝的多様性などを明らかにした。また一方で黒潮の海流モデルにより海域間の幼生分散を推定した。こうした情報を踏まえ、EBSA(生態学的、生物学的に重要な海域)の基準に沿って、海域間の相対的重要度を算出した。クシハダミドリイシの仲間では、亜熱帯から温帯域にかけて遺伝的多様性が低くなり、もっとも近年出来た最北限の集団においては遺伝的多様性が有意に低くなるが、エンタクミドリイシ・ミドリイシの仲間では、最北限の集団まで比較的高い遺伝的多様性が維持されていることが分かった。海流モデルにより亜熱帯から温帯域への1世代での分散の可能性が低いものの、複数世代では移住の可能性があることが分かった。統計モデルにより、亜熱帯域は依然として重要度が高いこと、温帯域で昔からサンゴの分布する一部の海域も比較的相対的重要度が高いことが示された。


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