| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) I03-09  (Oral presentation)

昆虫の乾燥標本におけるゲノムDNAの劣化過程
Degradation of genomic DNA in dried insect specimens

*長太伸章(国立科学博物館), 辻村郁子(国立科学博物館), 佐藤綾(群馬大学)
*Nobuaki NAGATA(Natl. Mus. Nat. Sci), Ikuko Tsujimura(Natl. Mus. Nat. Sci), Aya Sato(Gunma Univ.)

 DNA解析は現在の生物学に欠かせない手法であり、遺伝学や進化学だけではなく分類学や生態学などでも重要なツールとして使われている。近年では新鮮な個体以外にも化石や博物館の収蔵標本などもDNA解析の研究対象となっている。昆虫の場合、博物館の収蔵標本などはDNA解析を行う前提ではない研究などで収集されたものが大部分であり、一般的に乾燥標本として保管されることがほとんどである。これまでにも乾燥標本では多少なりともDNAの分解が進むことが知られており、数十年前の博物館収蔵標本では一般的にDNA解析は難しいことが知られている。さらに状況によっては採集から時間の経っていない標本でもDNAバーコーディングなどのDNA解析が不可能であることもある。近年発達したハイスループットDNAシーケシング等を利用した塩基配列の解読やゲノム解析では高分子のDNAを必要とする解析も多く、特に高分子のDNAの分解過程は標本の利用可能性の判定に重要であるといえる。
 そこで本研究では乾燥標本のDNAが温度と時間でどのように分解するのかを断片サイズに着目して評価した。その結果、低温以外では高分子のDNAの分解は比較的早く進み、室温においても24時間以内に高分子のDNAの分解が進むことが明らかになった。このことから高分子のDNAを扱う解析では、室温で保存された乾燥標本の利用は難しいことが考えられる。さらに55℃では1時間程度でも高分子のDNAが分解していた。この温度は特に夏場の自動車内においては容易に達する温度であり、DNA解析での使用可能性のある標本については、保管時だけはなく採集時にも保管温度に十分な配慮をするべきであると考えられる。


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