| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-09  (Oral presentation)

アキアカネの減少に対する温暖化影響の評価
Evaluation of the effect of climate warming on the population declines of a dragonfly, Sympetrum frequens

*中西康介, 小出大, 横溝裕行, 角谷拓, 林岳彦(国立環境研究所)
*Kosuke Nakanishi, Dai Koide, Hiroyuki Yokomizo, Taku Kadoya, Takehiko I Hayashi(NIES)

アキアカネなどの水田のアカトンボ類は、1990年代に各地で激減したと報告されている。その主要因の一つが水稲用殺虫剤の種類の変化と考えられている。一方、アキアカネは羽化後、高地に移動して盛夏を過ごす習性があるため、温暖化が減少要因の一つであるとも疑われている。本種の越夏行動の適応的意義は、卵越冬を維持するための繁殖休眠であり、そのためには平均気温23℃以下の越夏地が必要であるという仮説がある(上田,1998)。そこで本研究では、温暖化による越夏適地の減少、あるいは気温が直接的にアキアカネの減少要因となり得るのか検討した。
まず、7~8月の平均気温23℃以下の面積を越夏適地面積と定義し、全球気候モデル「MIROC5」および「農研機構メッシュ農業気象データシステム」を利用し、1981~2017年の各年の越夏適地面積を都道府県ごとに算出した。つぎに、富山県で記録されたアキアカネの個体数データ(二橋,2012)を利用し、両者の関係を解析した。さらに、夏季に高地に移動しないため、越夏適地面積の影響を受けないと予想されるノシメトンボに対しても同様に解析することで、温暖化がアキアカネに与える影響が越夏適地面積の変化によるものか評価した。
その結果、1980年代から2010年代にかけて越夏適地面積の減少傾向は大きく変わらず、またアキアカネ激減期に当たる1990年代頃の越夏適地面積の減少幅よりも年次変動がはるかに大きかった。さらに、ノシメトンボも同様に減少していたことから、越夏適地面積の変化が1990年代のアキアカネ激減の主要因であるとは考えられなかった。また、越夏適地面積とアキアカネの増加率との間には有意な関連はなかった。一方、両種とも7~8月の平均気温と個体数との間に有意な負の関連があった。これらのことから、温暖化による越夏適地面積の減少がアキアカネの激減を引き起こした可能性は低いが、気温がアカトンボ類成虫の生存率等に直接影響を与えている可能性が示唆された。


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