| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) K02-04 (Oral presentation)
ブナ科樹木の種子である堅果は大型で栄養が豊富なため、種子散布前後に多くの捕食者によって摂食される。中でも種子散布前に堅果を加害する種子食昆虫は、種子生産に大きな影響を与えることが報告されてきている。ブナ科樹木は種子生産に年変動が認められることが多いが、このような種子食昆虫による加害やその回避が大きな要因の一つとも考えられている。
西日本の暖温帯における都市近郊林では、燃料革命以降の人為撹乱の減少等により遷移が進行し、コジイの優占する林が広がってきている。近年、様々な森林での研究において、林分におけるある種の個体密度が高くなると捕食者や種特異的に感染する菌が集中しやすく、同種の実生や稚樹といった子個体の死亡率が高くなるといった負の密度効果の存在が報告されてきている。林分におけるブナ科樹木の密度変化は、種子散布前においても種子食昆虫の密度や加害パターンに影響し、さらにはそれを介して種子生産の年変動にも影響している可能性がある。本研究では、京都盆地周辺において、最近コジイが優占してきた宝ヶ池丘陵林(「宝ヶ池」)と古くからコジイの優占が見られた東山(「東山」)、さらに人為の影響が少ないと考えられている宮崎県綾照葉樹林(「綾」)において、コジイの雌繁殖器官および成熟堅果の落下量や種子食昆虫による加害の季節パターンについて調べ、種子食昆虫の加害や種子生産パターンの林分による違いを明らかにすることを目的とした。
その結果、「宝ヶ池」「東山」「綾」すべての地点で、他のブナ科樹種では確認できなかったツヤコガ科の一種と思われる蛾の加害が優占していた。しかしながら、最近コジイが優占してきた「宝ヶ池」ではその加害割合が少なく、毎年多くの成熟堅果が生産されていたものの、「東山」や「綾」ではその加害割合が非常に高く、特に「綾」では殆ど成熟堅果が生産されない年もあることが明らかとなった。