| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) M02-02  (Oral presentation)

河川性サケ科魚類における温度依存的な種間競争:野外実験による検証
Temperature-dependent competition in stream salmonids: a field experiment

*大槻泰彦(北海道大学), Johan WATZ(Karlstad Univ.), 長塚健汰(北海道大学), 長谷川功(北海道区水産研究所), 小泉逸郎(北海道大学)
*Yasuhiko OTSUKI(Hokkaido Univ.), Johan WATZ(Karlstad Univ.), Kenta NAGATSUKA(Hokkaido Univ.), Koh HASEGAWA(HNF), Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

 過去20年,気候変動の生物の分布への影響の予測が生態学の重要課題となっている.一般に生物の分布は物理的環境要因と生物間相互作用の両方によって規定されると考えられるが,多くの研究は環境要因のみに着目し,生物間相互作用を考慮したものは少ない.環境条件により種間競争の優劣が変化する条件依存型競争が知られており,環境変化と種間競争がどのように相互作用しているのかを明らかにする必要がある.北海道に生息するサケ科魚類のオショロコマとイワナは,低水温の上流域(または湧水河川)にオショロコマ,高水温の下流域(非湧水河川)にイワナが,狭い分布重複域を挟んで分布し,分布重複域では種間競争の存在が示されている.この分布パターンは,水温の違いが種間競争の帰結を変える温度依存競争の結果である可能性が室内実験から示唆されている.そこで本研究では,より現実に即した種間競争の実態を明らかにするため,野外操作実験を行った.

実験は空知川水系の湧水・非湧水由来の支流で行った.湧水・非湧水の支流に,オショロコマ単独区,イワナ単独区,混生区のエンクロージャーを設け,実験開始時と終了時に計測した各個体の体重からその間の成長率を算出し,水温と他種の存在が成長率に影響を与えたかを検討した.

オショロコマの成長率は非湧水河川の混生区において顕著に低下した.一方,イワナの成長率はいずれの水温条件下でも混生区において上昇した.この結果から,オショロコマは下流域(非湧水河川)では高水温によりイワナに対し競争上不利になるため,分布が上流域(湧水河川)に限定されていることが示唆された.一方混生区ではイワナはいずれの水温条件においてもオショロコマに対し競争上優位であり,イワナが上流域に分布しない理由は説明できない.これには,オショロコマがイワナに対し,水温以外の要因に関して競争上優位である可能性や競争以外の要因が存在する可能性が考えられた.


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