| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) M02-06 (Oral presentation)
水や土壌などの環境中に含まれるDNAは環境DNAと呼ばれ、そこに生息する生物の分布や生物量の手がかりを与えるものとして近年注目を集めている。特に、迅速かつ簡便な群集レベルの種検出を可能とする手法として、ユニバーサルプライマーと次世代シーケンサーによる環境DNA分析(環境DNAメタバーコーディング)が広く利用されるようになった。しかし、この手法によるデータは野外での標本収集から室内実験に至る複数の段階を経て得られるものであり、そのそれぞれで偽陰性の検出誤差を生じうることから、多様性の評価は階層的な検出過程による不確実性を踏まえて行う必要がある。また、環境DNA分析には、データを得るまでの各段階間でどのように反復数を割り振るかという調査デザイン上のトレードオフがあり、何らかの効率性の観点から調査コスト・労力の最適な配分を明らかにすることが必要になるが、そのための具体的なアプローチはあまり検討されていない。
本研究では、環境DNA分析による多様性評価のための新しい手法として、ゼロ過剰ディリクレ多項分布を用いたマルチスケールサイト占有モデルの拡張を提案する。このモデルは環境DNA分析に固有の検出過程を明示的に表す階層モデルであり、読み取り塩基(リード)数として得られる各配列の反復計数データに基づき、非検出の種に対してサイト占有の事後確率を与える。このモデルでは、サンプルあたりの総リード数や配列の相対優占度の違いに由来する検出率の変動が説明されるため、従来のサイト占有モデルと比べて偏りの少ない推測を行えると期待される。さらに、提案モデルを用いて種検出効率を最大にするサンプリングデザインを決定するためのベイズ決定分析の枠組みを構築する。提案手法を霞ヶ浦流域の51地点から得られた淡水魚の環境DNAメタバーコーディングデータに適用し、その有用性を示す。