| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-005 (Poster presentation)
東アジア原産の小型コイ科魚類モツゴは、非意図的・意図的移植により欧州など32か国へと急速に分布を拡大した外来種である。一方、日本固有種であるシナイモツゴはモツゴと置き換わるように激減し、現在は絶滅危惧IA類に指定されている。このような姉妹種間における劇的な分布置換の要因は、二種の形質の比較によって考えられてきた。
楕円形の卓上水流装置を用いたこれまでの行動学的実験より、モツゴは流水中で上下流に遊泳するが、シナイは同じ位置を保つように遊泳するという2種で異なる⾏動が観察され、モツゴはシナイよりも高い遊泳能力を有することが示唆された。本研究では、2種の遊泳能力をさらに詳細に分析するため、(1)密閉式回流水槽を用いた臨界遊泳速度(Ucrit)、酸素消費量(MO2)、尾鰭の振動数・振幅の測定し、さらに(2)遊泳能力に影響すると考えられる鰭と体型の形態解析を行った。
その結果、モツゴはシナイと比較して、(1)Ucrit(モツゴ,シナイ: 11.7, 9.4 BL/s)、MO2(1259, 739 mg/kg/h)および振動数(581, 431回/分)が有意に高く、振幅(7.8, 13.2 %BL)が小さく、(2)尾柄が細く、胴体の前方が高く、三日月型に近い尾鰭を有しており、長時間の遊泳に適した巡航遊泳に好適な特徴を持つことが示された。さらにモツゴは、長い尾鰭と背鰭を持ち、捕食者回避に有効な非定常遊泳に長ける特徴も有していた。また、今回の実験では、シナイと比較してモツゴは低い流速では水流に逆らって泳がない傾向がみられた。
以上の結果より、モツゴはシナイよりも流水環境に適応的であることが示唆された。今後、非定常遊泳の能力の種間比較によって、二種の遊泳戦略をさらに明らかにする事ができるだろう。また、モツゴが低い流速では水流に逆らわないことは、新天地における速やかな好適生息地への移動分散を促進する可能性がある。