| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-073  (Poster presentation)

チョウセンカマキリの交尾行動に対する精包摂餌の影響
The effect of spermatophore feeding on mating behavior in the praying mantid Tenodera angustipennis

*井上善敬, 長田祐基, 高見泰興(神戸大学)
*Yoshitaka INOUE, Yuki Nagata, Yasuoki Takami(Kobe Univ.)

 有性生殖をする動物では,配偶の際に雄が雌へ精子以外のものを受け渡すことがある(婚姻贈呈).婚姻贈呈は,雄が雌の交尾行動を操作し,自らの繁殖成功を高める戦術の一つであると考えられる.雌による精包食は婚姻贈呈の一形態であるが,それがどのように雌の操作につながるのかについては,一部の直翅類を除いてあまり調べられていない.そこで本研究は,チョウセンカマキリの精包食を対象に,精包食の要因と帰結を明らかにすることを目的とし,仮説1:精包食は雌にとって栄養的利益がある;仮説2:精包食あるいは精液輸送を通じて雄は雌の再交尾を抑制する,を検証した.
 チョウセンカマキリの幼虫を夏に採集し,羽化した未交尾雌を実験に用いた.仮説1を検証するため,任意の雌雄ペアで交尾させ,精包食の有無に関わる要因を調べた.結果,雌の空腹度の指標(肥満度,性的共食いの発生)と精包食の有無に関連はなく,栄養状態の低い雌が積極的に精包食を行う傾向は見られなかったため,仮説1は棄却された.精包の重さは雌の体重の約1%に過ぎないため,雌にとって精包食は栄養的には重要ではないのかもしれない.
 仮説2を検証するため,1回目の交尾実験後の雌に別の雄を毎日提示し,雌が再交尾するまでの日数を測定した.雌の再交尾率を予測する要因を調べたところ,精包食の有無は関連しないが,交尾時間が長いほど再交尾率が低下することがわかった.交尾時間はその間に輸送される精液物質の量と相関すると考えられるため,精液物質による雌の再交尾抑制の可能性が示唆された.あるいは,雌雄交尾器の接触時間自体の影響も考えられる.また,雄の肥満度が低いと雌の再交尾率が低くなることがわかった.雄は,栄養状態の悪さによる不利を,雌の再交尾抑制に投資することで補うのかもしれない.


日本生態学会