| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-075  (Poster presentation)

ヒグマの掘り返しに餌密度と植生タイプが与える影響
Effects of prey density and vegetation on the digging by brown bears

*富田幹次, 日浦勉(北海道大学)
*Kanji TOMITA, Tsutom Hiura(Hokkaido University)

 動物の採餌場所の選択性に、エサの量や採餌効率といった採餌環境が与える影響を明らかにすることは、彼らの採餌戦略を理解するために重要である。多くの哺乳類は、土壌動物など地下のエサを採餌するために地面を掘り返す。先行研究の多くは、採餌環境の異質性が低い草原で実施されているため、採餌環境が掘り返しの場所選択性に与える影響はあまり分かっていない。
 本研究では、北海道知床半島の森林を調査地として、ヒグマによるセミ幼虫を採食するための掘り返しに注目し、掘り返しの場所選択性に餌であるセミ幼虫の密度と掘り返しを阻害するササの存在が与える影響を検討した。調査地の主要な森林タイプと林床におけるササの有無の組み合わせより、調査プロットを6タイプ、計91か所設定した。そして、プロットタイプ間で掘り返しの発生頻度とセミ幼虫の相対密度を比較することで、ヒグマの掘り返しの場所選択性にセミ幼虫の密度がおよぼす影響を検討した。その結果、ササが生えていないカラマツ人工林において、掘り返し頻度とセミ幼虫の抜け殻密度は最も高かった。一方、天然林において掘り返しは全く見つからず、セミ幼虫の抜け殻密度は最も低かった。これらより、掘り返しはセミ幼虫の密度が高い植生タイプに集中することが考えられた。次に、掘り返しの発生頻度にセミ幼虫の抜け殻密度とササの存在がおよぼす影響を構造方程式モデリングで解析した結果、セミ抜け殻密度は正の影響を、ササは負の影響を与えていた。
 以上より、ヒグマによる掘り返しの場所選択性は、掘り返しを阻害するササの存在やセミ幼虫の密度の影響を受け、ササが生えてないカラマツ人工林に偏ることが示唆された。また、本研究の結果より、掘り返しの場所選択性には、エサの利用可能量や掘り返しを阻害する要因といった採餌環境が重要であることが示唆された。


日本生態学会