| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-126  (Poster presentation)

高標高域におけるミズナラの積雪環境への適応:ミズナラとミヤマナラの葉と木部の形質
Adaptation to snowy environments in leaf and xylem traits of two varieties in Quercus crispula

*三部真優(弘前大学), 織部雄一朗(森林総合研究所), 石田清(弘前大学)
*Mayu Sambe(Hirosaki Univ.), Yuichiro Oribe(Foresty and Forest Products RI), Kiyoshi Ishida(Hirosaki Univ.)

ミヤマナラは偽高山帯(日本海側の針葉樹林が欠如した亜高山帯)に生育する代表的な落葉低木種である。先行研究によるとこの種が優占する群落は尾根上(少雪)から湿地等の吹きだまり(多雪)までの幅広い積雪環境傾度上に存在しているが(畠瀬・奥田1999)、その特徴や基本変種ミズナラとの生態的差異に関する研究は少ない。今後、気候温暖化による気温の上昇や、降水・積雪量の変化で森林をとりまく環境変動が指摘されている。特に偽高山帯では低標高に生育する樹種の侵入により偽高山帯域が消滅することが危惧されており、森林の将来的な動態予測は非常に重要である。

本研究では森林の動態予測に関わる知見を得るために多雪環境に対する樹木の適応形質を解明することを目的とし、積雪への適応の程度が異なると考えられるミヤマナラとミズナラ間の生態的形質の比較を行った。調査は青森県八甲田連峰の積雪環境と樹種が異なる7地点における消雪遅延への適応として春季の葉フェノロジー、雪圧への適応として幹(木部)の力学的強度に着目し積雪環境別に比較を行った。

開芽・展葉に要する積算温量の多重比較を行った結果、少雪地のミヤマナラはミズナラと積算温量に有意差がない一方で、多雪地のミヤマナラは消雪から開芽までの期間を有意に早めていることが分かった。切枝を使用した同一温室内における開芽・展葉においてもこの傾向が見られ、多雪地ミヤマナラは消雪時期の遅延に対し開芽を早めることで適応していると考えられる。力学的強度の比較については、幹サイズに関わらず多雪地ミヤマナラの方がミズナラよりも強度が低い、つまり幹が柔軟であった。幹の柔軟性の高さは樹体が埋雪期に匍匐することを容易にし、樹体の雪圧による破壊を軽減していると考えられる。少雪地ミヤマナラとミズナラ間では強度(木部密度)に明瞭な差は見られず、雪圧による自然選択の強度が小さいことが示唆された。


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