| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-132  (Poster presentation)

硫気孔原土壌への進出による遺伝的帰結
Genetic consequences of plant edaphic specialization in solfatara fields

*長澤耕樹(京都大学), 瀬戸口浩彰(京都大学), 牧雅之(東北大学), 後藤隼(東北大学), 福島慶太郎(京都大学), 井鷺裕司(京都大学), 陶山佳久(東北大学), 綱本良啓(森林総研東北支所), 阪口翔太(京都大学)
*Koki Nagasawa(Kyoto Univ.), Hiroaki Setoguchi(Kyoto Univ.), Masayuki Maki(Tohoku Univ.), Hayato Goto(Tohoku Univ.), Keitaro Fukushima(Kyoto Univ.), Yuji Isagi(Kyoto Univ.), Yoshihisa Suyama(Tohoku Univ.), Yoshihiro Tsunamoto(FFPRI), Syota Sakagushi(Kyoto Univ.)

 火山地域では噴火に伴う撹乱の影響で、植物の生育にとって非常に過酷な環境が広がる。特に地表に硫化水素が噴出し続ける硫気孔原は、土壌の酸性化に伴って高濃度の有害イオンが蓄積し、植物の生育を阻害する。東北地方の硫気孔原に生育するヤマタヌキランは、こうした硫気孔原にのみ優占するスゲ属植物で、似たような環境に生育する近縁種がいないことから、本種は種分化の過程で硫気孔原への適応を新規に獲得したと考えられる。また、本種は長距離散布能力を持たないと考えられるにも関わらず、東北地方の6つの火山群に隔離分布している。以上から本種は硫気孔原への進出の過程、及びその後の集団動態の研究に適した材料といえる。そこで本研究では分子系統解析と集団遺伝解析を用いて本種の起源とその後の集団動態を明らかにすることを目的とした。
 MIG-seqによる分子系統解析の結果からは、火山荒原にも生育することが知られているコタヌキランがヤマタヌキランの姉妹種であることが明らかとなった。このことから、両種の共通祖先が火山環境の近くに生育していた可能性が考えられた。次に、姉妹種であると明らかになったコタヌキランを含めて集団遺伝解析を行ったところ、ヤマタヌキランは姉妹種と比べ遺伝的多様性が著しく低いことが示された。また個体レベルで見ると、ヤマタヌキランの多くの個体は全遺伝子座でホモ接合していた。近似ベイズ計算による集団動態推定の結果からは、ヤマタヌキランが姉妹種と分化した後、分布域を拡大させていくなかで繰り返し集団サイズの縮小を経験したことが示唆された。以上より、ヤマタヌキランは特殊土壌への進出とその後の分布域拡大に伴って、複数回にわたる創始者効果を経験したことが推察された。また集団が確立した後にも火山による撹乱や近親交配の影響で集団サイズが縮小したことが考えられ、ヤマタヌキランが複数の進化段階で遺伝的多様性を失ったことが推察された。


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