| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-138 (Poster presentation)
外来植物の分布拡大プロセスの解明は適応進化の理解および効率的な防除につながる。イネ科ドクムギ属は、世界中の農耕地における問題雑草であり、その種子が輸入穀物に混入して日本に持ち込まれ、港でこぼれ落ち定着している。一方でドクムギ属は、牧草や緑化用の栽培品種として日本に導入され利用されてきた。ドクムギ属は日本で農耕地や砂浜に雑草化しているが、これまでの調査から、砂浜の個体は輸入穀物の混入種子に、農耕地の個体は栽培品種に由来していることが示唆されている。
このような分布パターンの違いをもたらす局所適応やそれに関わる形質を明らかにするために、ドクムギ属の発芽時期である2017年9月より、関東、関西、九州それぞれの農耕地、港、砂浜の3地域×3集団の種子を用いて、農耕地(京都市)と砂浜(津市)の2地点で相互播種実験を行った。農耕地では全集団が高い生存率を示したが、砂浜では農耕地集団が有意に低い生存率を示した。出穂時期は港、砂浜、農耕地集団の順に早く、農耕地集団のみ砂浜での出穂が農耕地より平均14.4日遅かった。砂浜では5~6月に枯死する個体が多く、出穂の遅れは生存に不利だといえる。生産小花数は、農耕地では農耕地集団が、砂浜では砂浜集団が多く、局所適応がみられた。
種子の休眠性は発芽時期を左右する重要な形質である。砂浜集団には穂に種子が残ったまま倒伏する個体が多いため、穂から自然に外れる散布種子と、穂に残る非散布種子を区別して発芽率を比較した。2018年の採集直後の発芽率は、港および砂浜集団は散布種子よりも非散布種子で有意に低く、小穂の基部の種子はほぼ発芽しなかった。したがって、港および砂浜集団には散布形態や小穂内での位置によって休眠程度にばらつきがあった。一方で、農耕地集団は散布形態や位置によらず発芽した。この休眠性の差異が野外における発芽時期や生存率に違いをもたらすのか検証する必要がある。