| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-141 (Poster presentation)
雌雄異株植物では、有性繁殖や生活史特性に関する様々な形質で性的二型が報告されているが、クローン成長に関する研究は非常に限られている。ミカン科コクサギ属の雌雄異株低木コクサギは、有性生殖のほかにクローン成長(伏条更新)によって個体増殖を行う植物である。先行研究によりオスの方が旺盛にクローン成長をすることが分かっているものの、ラメットの分布パターンや分布パターンと生育環境との関係が雌雄間で異なるのかはあまりわかっていない。そこで本研究ではコクサギを対象に、伏条更新に関する形質や定着初期におけるラメットの分布パターンの性的二型について明らかにすることを目的とした。
調査は、コクサギの小さいラメット(樹高1.3 m以下)が多く生育する、岐阜県郡上市に設定した調査地(20 m×40 m)で2018年に行った。伏条更新に関わる形質として主幹の倒れ度、成長に関わる形質としてサイズと成長量を雌雄および非開花のラメット間で比較した。成長量に関しては、低木層の位置での開空度や根元の定着基質といった生育環境の影響も調べた。また、オスとメスの分布パターンおよび、ラメットの幹数に影響を与える生育環境や他樹種の混み合い度を評価した。なお、有性繁殖能力の一つとして、種子の発芽率も明らかにした。
小さなラメットの主幹の倒れ度、サイズおよび成長量については、雌雄間で有意な差は見られなかった。また、ラメットの成長速度に光環境は影響を与えていなかったが、根元の定着基質が土であるラメットの方が成長量が高くなる弱い傾向がみられた。旺盛な伏条更新を反映してオスラメットの幹数がメスラメットより多かったが、暗く、土被度が高く、ツリバナが多い場所に雌雄は同所的に分布していたことから、コクサギの生育は性よりも種自体が好む環境に影響を受ける可能性が示唆された。さらに、種子発芽率は非常に低く、コクサギの旺盛な伏条更新は発芽率の低さを補償しているのかもしれない。