| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-146 (Poster presentation)
種間交雑は種の境界を曖昧にし,場合によっては短期間で種を絶滅させうるため,近縁複数種の共存には交雑を防ぐ生殖隔離が不可欠である.植物の生殖隔離には,受粉前に有効な空間的隔離(個体群間の距離),季節的隔離(開花期の種間差)および送粉者隔離(花粉運搬者の種間差)や,受粉後に有効な雑種個体の致死性や不稔性などが知られている.日本産テンナンショウ属(サトイモ科)は,しばしば2~5種が形態的独立性を維持しつつ共存しているが,人為交配による雑種形成が容易であるうえ雑種個体の稔性がほとんど低下しないため,種間に受粉前生殖隔離が存在すると予想される.そこで本研究では,岡山県北部に分布するテンナンショウ属5種を対象に,種間の受粉前生殖隔離(空間的隔離・季節的隔離・送粉者隔離)を網羅的に明らかにすることを目的とした.まず,分類形質を種間比較することで種の独立性を検証したところ,テンナンショウ属5種は形態に基づいて識別可能であり,種間に有効な生殖隔離が存在することが示唆された.さらに,テンナンショウ属5種は分布標高によって高地性1種・中間性1種・低地性3種に,開花期によって早咲き3種・遅咲き2種に大別できた.訪花昆虫の大半はクロバネキノコバエ科とキノコバエ科の双翅目昆虫であったが,属構成には全ての種間で違いがみられた.以上のことから,テンナンショウ属5種間の全ての組み合わせ(計10通り)に送粉者隔離が存在し,うち7通りでは,さらに空間的隔離か季節的隔離,あるいは空間的隔離と季節的隔離の両方が存在することが示唆された.しかしながら,分布標高・開花期・送粉者相のいずれにおいても種間での重複が認められたため,これらの隔離機構はそれぞれ単独では生殖隔離として不完全だと推測された.したがって,送粉者隔離に加えて他の生殖隔離が組み合わさることで,テンナンショウ属の種間交雑が効果的に防止されていると考えられた.